ブンブンと麻衣は首を横に振った。
 窓の外に目をやった。あの日と同じ、針のように細い雨がふっている。

「星弥は……去年の七夕の日に亡くなったの」

 言葉にしてはダメだ、と自分のなかの誰かが叫んでいる。
 思い出したくないよ、と。
 忘れたいんだ、と。

 でもこのままじゃ、奇跡は起きない。
 私が過去を受け止めないと、この奇跡に続きはないと思えたから。

「月穂、大丈夫?」

 心配そうに尋ねる麻衣に、無意識にかんでいた唇を開いた。

「入学してもみんなには星弥のこと、話せなかった。星弥の親友が空翔でね。空翔にも口留めしてたんだ」
「そうだったんだ……」
「水曜日だった。テストが終わった翌日……学校に行こうとしてたら、星弥のおばさんから電話が来たの。『もうダメかもしれない』って……」

 めまいがする。
 心がこわれる感覚が昨日のことのように思い出せる。
 悲しみ色に支配され、自分が自分でなくなっていく気分だった。

「星弥は私を残して死んじゃった。もう二度と会えない。頭ではわかってるのに、心がついていかない。そんな感じなの」
「月穂」
「でも、不思議な夢を見たの。夢のなかで星弥はまだ生きていて、流星群の夜に奇跡が起きるって教えてくれた。だけど夢のなかでも星弥は病気になっていて、なんとかしたかったのにうまくいかなくて、三六五個のてるてるぼうずを作る約束して、でも間に合わなくて――」
「もういいよ。大丈夫だよ」

 気づくと、立ちあがった麻衣に抱きしめられていた。

 涙声の麻衣に、自分も泣いていることに気づく。
 本当に悲しい時の涙は、静かに流れていく。
 悲しみも涙と一緒に流れてしまえばいいのにな……。
 ぎゅっと抱きしめてくれる麻衣の背中に手を回した。

「ありがとう、麻衣」
「私こそ、話しにくいこと教えてくれてありがとう」

 体を離して、私たちは少しだけ笑った。

「もっと月穂のこと知りたい。でも、今は私が苦しくて声に出して泣いちゃいそう」

 泣きながら笑う麻衣に、私もまた泣いた。
 まだ悲しみは体全部に残っている。
 止めてくれなかったら、私も悲しみに呑まれていたかも。