「うん、約束する」
「手伝ってもいい?」
「……うん」

 麻衣は「やった」と口のなかで言うと、手際よくティッシュを丸めていく。

「こういうの得意なんだ。あ、目だけは月穂が書いてね。てるてるぼうずは、目を書く人の願いが込められるって言うからさ」

 麻衣とってはわけがわからないことのはずなのに、楽しそうに手伝ってくれている。
 話をするのは、流星群が消えたあとと決めていたけれど、それって正しいことなのかな……。
 そんな考えがふと頭に浮かんだ。
 どんな時でも私を信じ助けてくれた麻衣。
 すべてが終わったあとに話をするのは、違う気がした。

「麻衣。これから話をしていい?」
「無理しなくていいよ。大丈夫大丈夫」

 ティッシュをお団子みたいに丸めて麻衣は笑う。

「ぜんぶは話せない。きっと意味がわからないと思うから。でも、麻衣に聞いてほしい」

 麻衣の指先が一時停止ボタンを押したように止まった。
 ゆっくり目線を合わせた麻衣の瞳に涙が浮かんでいた。

「……いいの?」
「どうして麻衣が泣くのよ。まだ話もしてないのに」
「ううん、なんだかうれしくって。すごくうれしくって……ありがとう」

 洟をすする麻衣の向こうで、深川さんがこっちを見ていることに気づいた。
 なんだかヘンな顔をしている。
 松本さんは残って勉強をするらしくノートになにか書いている。
 場所を変えて話したほうがいいのかもしれないけれど、せっかくの決心が揺らぎそうで怖かった。

 話すなら今しかない。
 小声で「あのね」と口を開いた。

「中学生のときに恋人がいたの。皆川星弥っていう名前でね――」

 名前を口にすれば、胸の奥がチクリと痛んだ。

「彼は推薦でこの高校を受験して、私は一般入試で。ふたりとも合格したの」
「え……そんな男子、いる?」

 不安げに麻衣の瞳が揺れた。

「いない。結局、星弥は一度もこの高校に来られなかった。病気が発覚して、進行して……。あ、すごく悲しい話だから、ここでやめる?」