七月三日、曇り。

 テストの途中で雨が降りだした。
 あと四日で流星群がやってくるのに、週間天気予報にはカサと雲のマークが並んでいる。
 せめて、流星群が見られる時間だけでも晴れてほしい。

 あれから、星弥の夢は見ていない。
 日記アプリは、星弥から別れを告げられた内容のままで、私たちがあの山頂に行ったことも上書きされていなかった。
 仮想空間を体験しているみたいな気分。

「いきなり初日から難しかったねー」

 前の席にどすんと座った麻衣。
 もらったノートのおかげで赤点だけはまぬがれそう。

「このあとどこか寄ってく? 月曜日は数学Ⅰがあるし、対策必要だと思うんだよね」
「あ、ごめん」

 夢のなかで星弥から言われた『てるてるぼうず作り』は、まったく進んでいない。
 星弥がいなくなったあと、お葬式でおばさんが渡してくれたのが三十個。夢を見てから自分で作ったのが二十個。
 徹夜しても三六五個を間に合わせるのは難しいかもしれない。
 断るのがわかっていたように、麻衣は「わかった」と笑った。

「あの約束は覚えてるよね? テストが終わったらぜんぶ話してくれるってやつ」
「ああ、うん……」
「うわ。なんか話してくれなさそう」
「えー、そんなことひと言も言ってないよ。話す話す、絶対に話すから」

 わざと明るくふるまってくれていること、わかるよ。
 私もそうだったから。
 気づくと、あの夢を見て以来、どんどん素の自分に戻っている。
 麻衣は軽くうなずくと私の手元を見やった。

「こないだから作ってるてるてるぼうずについても、その時話してくれるの?」

 私の手元にある白い布を見る麻衣。
 机の上にはティッシュ箱と紐とマジックが置いてある。
 テスト勉強もしないでてるてるぼうずを作る私を、クラスメイトは不思議そうに見ていた。

 星弥との約束を守りたい一心で作っているけれど、傍から見れば奇妙すぎる光景なんだろうな……。