「ひどい、寝たフリしてたの!?」
「ちょっと前に起きたんだよ。そしてら、言ってくれたからさ。今度は目が覚めている時にしてほしいな」

 慌てふためいていると、車の窓から溝口さんが「時間!」と叫んだので車に急ぐ。

 車に戻ってからも星弥はニコニコしていた。
「溝口さんのおかげですよ」なんて上機嫌。
 車に乗せてもらっているおかげで体力が残っているんだろうな。
 車を降り、お礼を言うと溝口さんは白衣を風に預けながらうなずいた。

「今回は特別。次はないから」

「はい」と答える星弥。私も大きくうなずいた。

「よろしい。あ、ひとつ教えておく。二年後の流星群は、きっとすごい人が押し寄せてくると思う。さっきの道も草木で覆ってわからなくするつもりだから」
「え……」

 行けなくなるのは困る。表情を曇らせる私に溝口さんはニカッと笑った。

「初めての人があそこに行ったら危ないからね。あんたたちなら大丈夫。入口の場所だけしっかり覚えておきなさい」

 こういうことも目覚めてしまったら、夢のなかの私は忘れてしまうのだろうか。

「本当にありがとうございました」
「いいって。ほら、お迎えが来たよ」

 あっさりとドアの向こうに消えた溝口さんを見送ってからふり返る。
 てっきりバスが来たのかと思ったら、見知らぬ車が駐車場に滑り込んでくるところだった。

「あれぇ、空翔じゃん」

 星弥が車に駆け寄ると、助手席から空翔が顔を出した。
 運転席にいるのは見知らぬ男性。

「空翔じゃん、じゃねーよ! 勝手に病院を抜け出してなにやってんだよ! みんな大騒ぎしてるんだぜ」

 駆け寄ると、空翔は見たこともないくらい怖い目でにらんでくる。

「お前、彼女だろ! なに勝手なことしてんだよ!」
「あ……ごめんなさい」
「まあまあ、怒るなって。俺が無理やり誘ったんだしさ」

 間に入る星弥もギロッとにらんでから、「んだよ」と空翔はぼやいてから運転席を見やった。

「俺のおやじ。仕事中抜けして探してくれた」

 運転席に回った星弥が、
「すみません。ありがとうございます」
 とお礼を言っている。

 向こう側の木々が風に大きく揺れている。
 いや、違う。
 景色自体がゆがんでいるんだ。
 夢が、終わりを迎えようとしているんだ。

 もう一度、頂上へ続く道を確認した。
 明日からの私は今日のことを覚えていないかもしれない。
 でも、これから目覚める私に、この記憶が上書きされるはず。

 ああ、星弥。
 もう少しそばにいたい。
 奇跡を信じるから、どうかもう少しそばに――。