ゆっくり体を起こした星弥が私を見つめた。

「二年後に俺はもういない。それでも七夕の夜、てるてるぼうずを持ってここに来てほしい。きっと、流星群が奇跡を運んでくれるから」

 風が彼の前髪を躍らせる。
そう、本当の日々のなかに、彼はもういない。
 私は夢のなかで星弥に会え、奇跡を起こそうとしている。
 だけど、時間だけが過ぎていき、結局は元の運命をなぞっているだけ。

 山の上にいるのに、海の底で溺れているみたい。
 星弥がいない世界での苦しみは、それこそ宇宙みたいに広くて深い。
 無限の悲しみを引きずって生きている。

「わかった」

 にっこり笑って言えた自分をほめてあげたい。
 立ちあがった星弥が手を差し伸べてくれた。

「三六五個」

 星弥が言った。

「なにが?」
「てるてるぼうずの数。今日から二年後の七夕までだと軽く五百個は必要だけど、まけてもらって一年前から晴れを願おう。俺も作るからさ」

 歩き出す星弥に文句を言う。

「多すぎるよ」
「願掛けにはそれくらい必要だって。当日は、いちばんうまくできたやつを持参しよう」
「わかった」
「うちのてるてるぼうずも合わせれば、三百個くらいかなあ」
「だね」
「俺のこと、好き?」

 思わず足にブレーキをかけた。

「急に……」
「だってずっと言ってくれてないじゃん。待ってるんだけどな」

 ニヤニヤ笑う星弥の顔色が悪い。具合、悪いのかな……。

「ちゃんと治ったら言う。それまでは言わないから」

 唇を尖らせた星弥が肩をすくめた。

「ま、いいや。半分は叶ったし」
「へ?」
「さっき病院で言ってくれたじゃん」

 さっき、って……。
 そうだ、寝てる星弥に言ったんだった。