「キレイだね……」

「ああ」と答えたあと、星弥は空に両手を伸ばした。
 なにかをつかむような仕草をしたあと、ぱたんと腕をおろす。

「すごいよな。空が落ちてきそう」

 星弥が言うなら、本当に空だって落ちてきそう。

「俺、昔から不思議だった。空ってあんなに広いのにさ、宇宙はもっと広くて深くて無限なんだって」
「うん」
「人は死んだら星になるって言うけどさ、広すぎる宇宙空間で名前も知らないような星になっちゃったら、地球にいる月穂のこと見つけられないかも」
「やめてよね、そんな話。それより、学校でね――」

 冗談めかせて別の話題にしようとする私の手を、星弥はギュッと握った。

「逃げないで。俺も逃げないから」
「星弥……」

 悲しい瞳に青空が映っている。

「抗がん剤治療をしても、少し余命が伸びるだけなんだって」

 この話は、おばさんから聞いた。
 あれは、次の春ごろだったはず。
 きっとギリギリまでおばさんは黙っていたのだろう。

「そんなのわからないよ」
「わかるんだよ。自分の体だからわかる。月穂に伝えたかったけど、ほら……違う話でごまかそうとしてばっかだしさ」

 私がその話題を避けていたことなんて、とっくに星弥にはわかっていたんだ……。

「俺も同じ。自分のことだって認めたくなかった。でも、今は違う」

 それから星弥は目を線のようにして笑った。

「誰かにこの場所を教えたかった。月穂がムリなら空翔に、って。でも、月穂が一緒に来てくれてよかった。もう、思い残すことがなくなった」

 静かに目を閉じる星弥。

 本当は泣いてしまいそう。
 泣きたい。思い切り泣いて、悲しみを空に逃がしたい。
 でも、星弥が悲しむことはしたくない。

「そんなこと言わないでよ。私は奇跡を信じてるんだから」

 ふっと星弥の口元が緩む。

「俺も信じてるよ」
「だったら――」
「奇跡の内容は、俺が助かるとかじゃないと思う」