あたりを見回していると、天文台の入り口に人の姿が見えた。

「ここで待ってて」
「え、なんで。早く行こうよ」
「いいから待ってて。お願いだから」

 そう言う私に星弥は肩をすくめた。

「なんか月穂ってたまにうちの母親みたいになるよな」

 聞かなかったことにして、天文台の入口へ向かった。
 近づくと、その人が白衣を着ていることがわかった。
 さらに近づけば、若い女性だということも。
 髪をひとつに縛り、難しい顔で空を眺めている。
 背はそんなに高くないけれど、白衣越しでもスタイルがいいのはひと目でわかる。

 私に気づいた女性が眉をひそめた。

「あんた誰?」

 見た目はキレイなのに、男っぽい性格らしい。
 口を一文字に結んでいる女性に頭を下げた。

「あ、すみません。白山月穂と言います」
「中学生でしょ。こんなとこでなにやってんの。ここは部外者以外立ち入り禁止。そこにもでっかく書いてるでしょ。勝手に入らないで」

 言うだけ言ってプイと背を向けた女性に「あの!」と叫んでいた。

「お願いします。頂上まで行きたいんです」
「は?」

 片方の眉をひそめた女性が、あごで星弥のいる辺りを示した。

「だったらあっこから歩いて行けるよ。二十分とか三十分とか歩けば勝手につくから」

 もういいでしょ、と言わんばかりに顔を近づける女性に、
「一緒に……行ってもらえませんか?」
 恐る恐る提案した。

 女性は言われた意味がわからないようでしばらく眉間のシワを深くしてから、「はあ!?」と叫んだ。

「なんであたしがついて行かなくちゃいけないのよ。子供のデートにつき合ってるほどヒマじゃないの。ていうか、学校はまだ冬休みじゃないでしょう?」
「はい」

 うなずく私に女性はハッと目を開いた。

「まさかとは思うけど……自殺とかするんじゃないだろうね。そんなの困るんだよ」

 両方の腰に手を当てる女性の胸元に『溝口(みぞぐち)』というプラスチック製のネームプレートがついてあった。