そういえばここに来ていたときは、ずっとムリしていたんだな。
 元気でいつもと変わらない私を演じることで、心配させないようにしていた。
 家でも学校でもそうだった。
 星弥が亡くなってからも、そのクセだけが残ったんだ。

「星弥」

 そっと声をかけると、まぶたがピクッと動いた。
 ゆっくり目が開き、私を確認してうれしそうにほほ笑んだ。

「月穂。来てたんだ?」
「うん」

 それから星弥は、窓からの光に目を細めた。

「寝ちゃったか……。薬のせいか、すぐ寝ちゃうんだよな」

 上半身を起こした星弥は、さっき見た夢よりずいぶんやせていた。
 毎日会っていた時はわからなかったけれど、病状の進行はこんなところにまで表れている。

「抗がん剤の治療、はじまるんだよね?」

 自分の気持ちがそのまま言葉に変換された。
 あの頃は一度もしなかった質問に、星弥は一瞬言葉に詰まった。

「……厳密に言うと二回目。今回のはかなりキツいらしい。それより、空翔は元気? あいつ、ぜんぜん見舞いにも来なくってさ」
「今、痛みはあるの?」
「痛み止め出てるから平気。てか、もうすぐ冬休みだな。受験のほう大丈夫?」
「気持ち悪さは? ご飯はちゃんと食べ――」
「やめろよ」

 怒鳴るでもなく、切り捨てるような口調だった。
 言ったあと、星弥はハッとしたように顔を背けた。

「そんな話……したくない。いつもみたいに普通の話、しようか」

 今になってやっとわかった。
 私だけじゃなく、星弥も逃げていたんだ。
 悲しみに支配されないよう、ふたりで楽しい話題ばかり選んでいたんだね。
 そっぽを向く星弥に「ねえ」と声をかけた。

「私、星弥が言ってくれたこと、本気で信じてるの」

 反応がないけれど、私は続けた。

「『流星群は、奇跡を運んでくれる』って言葉。星弥が教えてくれたんだよ」
「奇跡……か」

 窓の外を向いたままで星弥は少し笑う。