絶望感に襲われながらスマホを取り出すと、そこには十二月二十二日の文字があった。
 前の夢からまた三カ月も経っているの?

「どうして……?」

 七月に戻りたかったのに、どんどん夢のなかの時間が進行してしまっている。
 まるで説明書のないゲームをやっているみたい。
 もう一度、最初からやり直したいのにどうしてうまくいかないの?

「月穂ちゃん」

 いつの間にか、おばさんが目の前に立っていた。

「おはようございます」

 私の口が勝手に挨拶をした。今は、朝なのだろう。
 おばさんは「ごめんね」と謝ると私の横に座った。

「これから行ってくるから、星弥のことよろしくね」
「静岡県ですよね?」
「菊川市に有名な専門医がいるみたいで、話だけでも聞いてくれるそうだから……。流星……あ、星弥の兄もついてきてくれるんですって」

 見ると、遠くにぽつんと立っている男性がいる。
 流星さんとはお葬式で初めて会ったと思っていたけれど、思い返せばこんなことがあった。

「今、星弥は?」
「不機嫌な顔で病室にいるわよ。二度目の入院も長引いているし、仕方ないんだけどね……」

 疲れた横顔で私を見て、おばさんは首を横に振った。

「月穂ちゃんも受験で大変なのに、本当にごめんなさい」
「いいんです」

 あのときもこんな感じで答えたっけ。
 今思うと、少しそっけない気がしたので言葉を追加する。

「うちは両親ともに放任主義ですから。私、星弥が治るって信じて、これでも一生懸命勉強してるんです。こないだ、A判定もらったんですよ」

 明るく言うと、おばさんはうれしそうにほほ笑んだ。

「A判定なんてすごいじゃない。そうね、前向きに考えなくちゃね」
「はい。だから私は好きなようにお見舞いに来るつもりです」

 あのころは自分のことで精いっぱいで、おばさんを気遣う言葉をかけてあげられなかった。
 星弥に会いに来ても、まるで病気のことは話してはいけないルールがあるように、私は学校のことばかり話をしていたっけ……。