おばさんと一緒に主治医の説明を聞く予定だったはず。
 樹さんにも相談したはずなのに、どうして?

 星弥はしばらく黙っていたが、
「不思議だったんだ」
 と、つぶやくように言った。

「不思議?」
「月穂に病院を薦められて、ひとりで受診したら病気が発覚して……。あの夜、ふたりにも説明したはずなんだ。総合病院へも行かなくちゃならなかったし。でもさ、ふたりとも翌日にはすっかりそのことを忘れてたんだ」
「え……?」

 星弥は眉をひそめて「覚えてない?」と尋ねるけれど、どう答えていいのかわからずあいまいに首をかしげた。

「だからあれは俺が見た夢だったのかな、って。親も月穂も俺の病気のことは忘れているみたいだった。樹さんに相談したけれど、なかなか決心がつかなくって、病院から親にばらされて検査入院した、って感じ」

 そっか、とようやく理解する。
 夢の世界ではもうひとりの私やおばさんがいるんだ。
 星弥の告白を聞いた時に意識が入れ替わっていたせいで、病気のことを知らないままなんだ。
 はらはら、と希望がはがれ落ちていく。

 ――私のせいだ。

 あのあと翌日の夢を見ることができていれば、強引にでも入院させられたはず。
 もしくは、夢の終わりに日記アプリにでもちゃんと記しておけばよかったんだ。

 『星弥を病院へ連れて行ってください』と書けば、過去の私は従ったかもしれない。
 涙が勝手にこぼれていく。
 せっかくのチャンスをムダにしてしまった自分が許せない。

「困ったな。泣かれると別れにくいよ」

 こんな時なのに、星弥は冗談めかせて別れを口にしている。
 わかっている。
 彼は弱っていく自分を見せたくないんだって。
 記憶の底に封じ込めたはずの悲しい思い出があふれてくる。
 気をゆるめれば今すぐにでも病室から飛び出してしまいそう。
 それくらい、あの日の私は絶望に打ちひしがれていた。

 でも、もう私は逃げたくない。
 あきらめたくない。