涙でぼやけ、星座がよりまぶしく感じられる。
 それでも、ただただ広がる星空を眺めていた。

「星弥君を驚かせたくて、照明を変えた時に作ってもらいました。おもしろい仕掛けもあるんですよ」

 南の空にいくつかの流星が扇状に流れた。
 ゆっくりと流れては消え、また生まれ消えゆく。

「これって……」
「もうすぐやってくる『やぎ座流星群』のイメージです。普段なら七月末に『みずがめ座南流星群』とともに見られるそうですが、今年だけは違うそうです」

 たしかにキレイだと思った。
 でも、星弥が言っていた『星がふる』には程遠いイメージだ。

「今年のやぎ座流星群だけは違うと、星弥君は何度も言っていました。この地方だけはふり注ぐような星が見られる、と」
「よく言ってましたよね」

 ふと、ふたりで下見に行った日を思い出した。
 山道を歩く彼のうしろ姿。
 体調が悪そうなのに私を心配して何度も振り返ってくれたこと。
 差し出された手……。

「きっと今年はキレイなのでしょうねぇ」

 樹さんの声に、記憶の旅をやめ人工の空を眺めた。

「星弥はこの星空を見たんですか?」

 春から夏にかけての星空が、彼はいちばん好きだった。
 もしこれを見られたならどれだけ喜んだだろう。
 暗闇のなかに並ぶ書庫は、まるでビル群。
 消えている照明の丸い形は、金星や水星に見える。

「なんとか間に合わせたかったのですが、結局一度も見ることはありませんでした」

 さみしげな声に樹さんを見ても、どんな表情をしいているのか見えない。

「間に合わせる? じゃあ、樹さんは星弥の病気のことを知っていたんですか?」

「ええ」と声がし、星空は一瞬で天井から消えた。
 白い照明がついてもまだ私は動けずにいた。

「二年前の夏だったでしょうか、教えてくれました」
「夏……ですか?」

 そんなはずはない。
 だって、星弥が病院に行ったのは十月だったはず。
 ぶわっと腕に鳥肌が走るのを感じた。

 夢での行動が、現実世界に反映されているんだ……。

 夢のなかで私は、七夕の日に受診を薦め、二十二日に結果が出ていた。