「私たちは大人になると、防御力ばかり高めてしまうんですよ。小さな冒険すらも怖がり、自分の足元を固めることばかり気にしてしまう。RPGでは容易に勇者を戦わせているのに、自分のことになると身動きが取れないんです。自分の戦闘力も防御力も数値で見えないからでしょうね」
プレステが好きだった星弥は、樹さんとよくゲームの話をしていた。
こうやってゲームに例えることもよくしていた。
ゲームのしない私にはよくわからなかったけれど。
自分でも気づいたのだろう、樹さんが自嘲気味に笑った。
「私が言いたいのは、月穂さんは奇跡を信じてほしい、ということです」
うなずく私を見てから「そうだ」と樹さんは腕時計を確認した。
「開館時間を過ぎましたが、せっかくなのでお見せしたいものがあるんです。もう少しいいですか?」
「はい」
答えると同時にカウンターの照明が切られ、館内は文字通り真っ暗になった。
戸惑っていると、スイッチを入れる音に続いてモーター音のようなものがそばで聞こえた。
音のするほうを見れば、プリンターだと思っていた機械から白い光が天井に向かって放たれていた。
「天井をご覧ください」
「え?」
見あげると、真っ暗だった天井一面に星空が映し出された。
無数の星が、見たこともないくらいまばゆく光っている。
「すごい……」
東側にアルタイルとベガ、そしてデネブが作る夏の大三角形があり、西の空にはもうすぐ見切れそうな春の大三角形も見える。星弥が好きだった、とかげ座まではっきりと見えた。
「この近くに天文台があるでしょう?」
「はい」
満点の星空から目を離せない。
「一般の立ち入りが禁止されていることを、星弥君はずっと不満げでした」
「ああ、そうでしたね」
星弥は天文台を見るたびにうらめしい顔でボヤていたっけ。
『こんな近くにあるのにさ』『高校に入ればきっと社会見学とかで行けると思うんだ』『市役所に交渉に行ったら追い返された』
星弥の声がまだそばで聞こえている。
やっぱり、過去になんてできないよ。
私のなかで星弥はまだ生きているのだから。
プレステが好きだった星弥は、樹さんとよくゲームの話をしていた。
こうやってゲームに例えることもよくしていた。
ゲームのしない私にはよくわからなかったけれど。
自分でも気づいたのだろう、樹さんが自嘲気味に笑った。
「私が言いたいのは、月穂さんは奇跡を信じてほしい、ということです」
うなずく私を見てから「そうだ」と樹さんは腕時計を確認した。
「開館時間を過ぎましたが、せっかくなのでお見せしたいものがあるんです。もう少しいいですか?」
「はい」
答えると同時にカウンターの照明が切られ、館内は文字通り真っ暗になった。
戸惑っていると、スイッチを入れる音に続いてモーター音のようなものがそばで聞こえた。
音のするほうを見れば、プリンターだと思っていた機械から白い光が天井に向かって放たれていた。
「天井をご覧ください」
「え?」
見あげると、真っ暗だった天井一面に星空が映し出された。
無数の星が、見たこともないくらいまばゆく光っている。
「すごい……」
東側にアルタイルとベガ、そしてデネブが作る夏の大三角形があり、西の空にはもうすぐ見切れそうな春の大三角形も見える。星弥が好きだった、とかげ座まではっきりと見えた。
「この近くに天文台があるでしょう?」
「はい」
満点の星空から目を離せない。
「一般の立ち入りが禁止されていることを、星弥君はずっと不満げでした」
「ああ、そうでしたね」
星弥は天文台を見るたびにうらめしい顔でボヤていたっけ。
『こんな近くにあるのにさ』『高校に入ればきっと社会見学とかで行けると思うんだ』『市役所に交渉に行ったら追い返された』
星弥の声がまだそばで聞こえている。
やっぱり、過去になんてできないよ。
私のなかで星弥はまだ生きているのだから。