空翔だってそうだ。
 私なら、こんなややこしくて不真面目な友達なんていらない、って思ってしまうだろう。
 ひとりぼっちでお弁当を食べている麻衣を想像し、胸が苦しくなった。

「麻衣、私……」

 言いかける私を遮るように「そうだ!」と麻衣は目を輝かせる。

「あのね、あのね。これ見て」

 リュックから一冊のノートを取り出して見せてくる。

「テスト対策をまとめたノートだよ。先生が『ここ出るぞ』って言ったページ数つきなんだよ」
「……作ってくれたの?」
「当たり前じゃん。あたしたちの苦手な英語は特にがんばってまとめておいたよ。といっても、松本さんも協力してくれたんだけどね」

 渡されたノートをめくると、小さな丸文字がたくさん並んでいる。
 図やイラストも描かれていて、解説本みたいに詳しい。

 あ、なんだか泣きそう。

 本当は麻衣に言おうと思っていた。
『しばらくは教室でも話しかけないで』って。
『お弁当も他の子と食べてほしい』って。
 でも、こんなの見たら言えないよ。

「ありがとうね。本当に、ありがとう」
「いいっていいって。あたしも復習になったし。それよりさ――」
「麻衣に話をしたいことがあるの」

 話途中で言葉を遮ると、麻衣はハッとしたあと不安げに表情を曇らせた。

「体調のこと? なにか……悪い病気とか」

 すがるように制服の裾をギュッと握る麻衣に、首を横に振った。

「じゃあなに? あ、空翔くんのこと?」
「なにそれ。空翔は関係ないよ」

 思わず笑ってしまった。

「だってわからないもん。すぐ話してくれないと、今この瞬間から不安になっちゃうんだから」

 ぶすっと膨れる麻衣に心のなかで『ごめん』と謝った。

「内緒だけど、今日はこれから図書館に行くの」
「図書館って、あそこの?」

 道の先を見る麻衣にうなずく。