「どうもしてない。むしろ、これまでのほうがどうかしてたの。深川さんにも言ったけど、七夕が終われば全部終わるから」

 今はわからなくても、その日が来れば空翔だってよろこんでくれる。
 親友だった星弥が戻ってくるのだから。

「七夕……?」
「私、今どうしてもやりたいことがあるの。これって空翔に話してもわかってもらえないと思う。だけど、大事なことなの」

 登校してくる生徒が私たちを避けて教室へ歩いていく。
 空翔はしばらく黙っていたけれど、急にニカッと笑った。

「そっか。ま、月穂が決めたなら仕方ない」

 想像してなかった反応に私のほうが驚きを隠せない。

「てっきり反対されると思ってた」
「いや、できれば学校には来てほしいけどさ、七夕までなんだろ。もうすぐじゃん」
「うん」

「それに」と、空翔は人差し指で私をまっすぐにさしてくる。

「月穂が本心を語るなんて久しぶりだし。俺は信じるよ」

 なにごとか、と奇妙な目で何人かの生徒が通り過ぎていく。

「ありがとう。でも、人のこと指さすのやめてよね」

 精いっぱいの憎まれ口。
 昔はいつもこうやって掛け合いみたいに話をしていたよね。
 なつかしさに息が苦しくなる。

「はいはい。おっかねー」

 おどける空翔を残し、小走りで階段をおりた。
 登校してくる生徒に逆らいながら校門を出て坂を下っていく。

 このまま図書館へ行こう。
 あの本をいちから読み直さなきゃ。
 思えば、ちゃんと奇跡を信じて読んでいなかった気がする。
 この時間からなら、きっと最後まで読めるはず。

 バス停とは反対方向へ歩き出した私の腕を誰かがつかんだ。

「え?」

 見ると、息を切らした麻衣が立っていた。

「おはよう。やっぱり月穂だったぁ」

 はあはあ、と息を切らせる麻衣は白い歯を見せて笑っている。

「麻衣……」
「体調良くなったんだね」

 どうして私なんかと仲良くしてくれているのだろう。
 こんなに迷惑ばかりかけているのになんで?