「色々あって……。七夕が終わったくらいからは、迷惑かけないで済むと思う」

 深川さん以外の人に聞かれないように伝えるが、彼女に隠す気はないみたい。

「期末テストはどうするの? それもサボるの?」

 声量を強めて詰問してくる。

「ううん。受けるよ」
「学校は平気で休むのに、テストだけは受けられるんだね。それってヘンじゃない? そもそもろくに授業を受けてないのに大丈夫なわけ?」
「赤点でも仕方ないよ。自業自得だから」

 そう、自業自得。
 すべての未来は、これまでの自分自身が招いていることなんだ。
 でも、過去を変えることができたなら、未来だって変わるはず。

 リュックを手にした私に、
「え、帰るの?」
 深川さんが不安げな顔になる。
 今、帰ってしまったら彼女が私に言ったせいだと思われてしまいそう。
 なんでもないように私は笑みを作る。
 もうひとりの自分を演じるのは慣れているから。

「今日は、忘れ物を取りに来ただけで、これから病院なの。テストはなんとか受けるから大丈夫。イヤなこと言わせちゃってごめんね」
「でも、さ……」
「あと……麻衣のことよろしくお願いします」

 お辞儀をするとリュックを右手に持ち駆け足で教室を出た。
 さっきは一瞬、素の自分が出てしまった。
 こんなこと今までなかったのに、動揺しちゃったのかもしれない。
 もう大丈夫、今はやるべきことに集中しなくちゃ。

「おい。待てって」

 追いかけて来た空翔が、私の前に回り込んだ。

「どういうことだよ。なんで帰るわけ?」
「さっき聞いてたでしょ。荷物を取りにきただけなの」
「ウソだ」

 らちが明かないので脇をすり抜けて歩き出す。

「私のことは放っておいて」

 けれど空翔はすぐうしろを同じ速度でついてくる。

「んだよ。お前さ、マジでどうしちゃったんだよ。待てって」
「待たない」
「待てってば!」

 足を止めると、つんのめる形で空翔もブレーキをかけた。