深川さんは、前髪を触りながら「なんで?」と問うた。

「白山さんって体が弱いんだよね? だから学校休んだり、遅れてきたりしてるんだよね? それなのに、なんで学校がある日に図書館にいたり、バーガーショップで目撃されてんの?」

 うしろの女子ふたりも応援するように大きくうなずいている。
 そっか、見られていたんだ……。

「それは……えっと」

 いつものように軽い口調を意識しても、頭の半分は図書館のことで占められている。
 どうでもいいよ、そんなこと。今はそれどころじゃないんだよ。
 そう言えたらどんなにいいか。
 気持ちに反して、私はまたヘラッと笑っていた。
 そんな私に、深川さんは聞こえるようにため息をついた。

「本当に具合が悪いならなんにも言わない。でも、先生に聞いても、病名すら教えてくれないし、理事長……あ、松本さんも結局は注意してないんでしょう。それって不公平じゃない?」

 もし、星弥が亡くなったことを説明しても、深川さんに私の悲しみなんてわからない。
 夢の話をしようものなら、気持ち悪がられるのも目に見えている。
 なにも答えない私に深川さんはさっきよりも声を大きくして続ける。

「別に注意とかじゃないよ。あたしがいいたいのは、ちょっとは麻衣のこと考えてあげたらどうなの? ってこと。あの子、昼休みだって『ひょっとしたら月穂が来るかもしれない』って、ひとりでご飯食べてるんだよ。かわいそうだと思わないの?」

 正義感を振りかざす深川さんを、これまでの私なら黙って聞いているだけだっただろう。
 でも、今は違う。
 どんなことを言われても、私にはやるべきことがある。
 誰にも……そう、誰にも邪魔されたくない。

「それに、あたしたちだって白山さんのことを――」

 ――ガタッ。

 勢いよく椅子から立ちあがった私に、深川さんは驚いた顔のままあとずさった。

「深川さんの言っていること、ちゃんとわかるよ。迷惑かけてごめん」
「……ならいいけどさ。ねえ?」

 うしろの女子たちも深川さんの問いにうなずいている。

「でも、しばらくの間はちゃんと来られるかわからない」
「だから、その理由を聞いてんの」

 じれったそうに両腕を組んだ深川さんから視線を逸らすと、前の入り口から空翔が入ってくるのが見えた。
 朝練かと思っていたけれど、今日は違うみたい。私たちを見て驚いた顔をしている。