教室に入ると、まばらなクラスメイトが私を見た。
 自分の席まで「おはよう」を伝えながらたどり着いた。
 教科書を取り出し、リュックを机のサイドフックにかけてから顔をあげると、向こうで顔をつき合わせてしゃべっている女子数人と目が合った。
 が、すぐに逸らされ、なにやらコソコソ話に戻ってしまった。

 なんだろう、と教室を見渡すと誰からもあからさまに視線を外される。
 目が合わないゲームでもしているみたいで気になるけれど、今はそれどころじゃない。
 期末テストも近いし、てるてるぼうずだってたくさん作らなきゃいけないし。
 なによりも、星弥を助けるという使命が私にはある。

 席に着くと机のなかからプリントが飛び出していた。
 一枚はもうすぐはじまる期末テストの概要、もう一枚が修学旅行について。最後は、進路調査の紙だった。

 誰かが亡くなっても時間は止まることなく進んでいく。当たり前のことなのに、ひとり取り残されたように感じてしまう。
 それももうすぐ終わる。
 流星群が奇跡を運んでくれるなら、あと少しで星弥は戻ってきてくれる。

 いつ戻って来るのだろう?
 今朝は期待しすぎてしまったけれど、過去を変えたからって翌日に戻ってくるわけではないみたい。
 流星群と一緒に戻ってくるのかな……。
 よく考えたら私は流星群についての知識が乏しすぎる。
 テレビで流星群の特集を見たりもしたけれど、星弥が言うように『星がふる』というものではなく、『いつもより多く流れ星が見える』程度だった。

 そもそもこのあたりは『星の町』という愛称を打ち出すほど、晴れた夜には流れ星が見られる。
 もう一度、あの本を最初から読み返せば答えが見つかるのかもしれない。
 学校に来たものの、すでに図書館であの本を見たい気持ちが込みあがってくる。
 期末テストがはじまってしまうと行く時間がないし……。
 机の木目とにらめっこしていると、誰かが前に立つのがわかった。
 顔をあげると、さっきコソコソ話をしていた女子のひとりが気まずそうな顔で私を見ている。

 彼女は、深川(ふかがわ)さん。下の名前はリナだ。
 長い髪をひとつに束ね、肩から前に垂らしている。メイクもクラスでいちばん上手なイメージ。

「白山さんに話があるんだけどさ」

 深川さんは平坦な声で言った。
 あまり話をしたことがないのに、なんだろう?
 そうだ、前に空翔が言ってたっけ。
 クラスで私を悪く言う人がいる、って。