『ええ。本当に不思議な夢ね。起きてすぐに星弥の部屋に行ったんだけど、やっぱり戻ってなかったの。報告しておかないと、って思って』
「ありがとうございます。でもきっと、これからですよ」

 もう六月末だ。
 あと一週間ちょっとでこの町に星がふる。
 その時までに星弥をこの世界に戻してみせる。
 落ち込んでいるヒマはないんだから。

『あの……今ってもう外にいるの?』

 気弱な声がスマホ越しに聞こえる。

「もうすぐ駅につくところです」
『私は、今日は仕事休むことにしたの。なんだか、夢のなかでもずっと起きてた感じだから疲れちゃって……』

 私にとっては希望のある夢でも、人によって受け止めかたが違うんだな、と思った。

「大丈夫ですか? お大事にしてくださいね」
『やっぱりね、私……思うのよ』

 歯切れ悪くそう言ったあと、深いため息が耳に届く。

『こんな不思議なこと、本当なら感謝しなくちゃいけない。あの子を取り戻せるならなんだってやりたい、って』
「はい」
『でも、やっぱり怖いの。もう一度失うことになったらどうしよう、って。前に夢を見たときもそうだったんだけど、夢のなかで星弥に会えるぶん、目が覚めた時の悲しみに涙が止まらなくるなるの』

 おばさんの言っていることは理解できた。
 私だって怖い。でも、奇跡は信じた人にしか訪れないから。
 今、それを口にするのは違う気がして「わかります」と同意した。
 しばらく呼吸音だけがスマホ越しに聞こえた。

『それにね、あの夢で起きたことが現実に反映されるって決まったわけじゃないでしょう? もし夢のなかの星弥の病気が治ったとしても、この世界に戻ってくる保証はないじゃない。がんばって、がんばって、でもダメだった時を想うと、私……耐えられない気がして……」

 最後は泣き声が入り混じっていた。
 おばさんは必死で星弥の死を乗り越えた。
 きっとおばさんなりに前を向いて歩いていた。
 それを引き留めたのは私だ。後悔がじんわりと生まれた。

「たぶん、ですけど……。『夢のなかで星弥に会いたい』って思わなければ、不思議な夢は見ないと思うんです」
『ええ』