夕食は静かにはじまり、静かに終わった。

 星弥は、ずっと具合が悪かったこと、私に受診を勧められたことを説明し、学校のあと病院へ行ったことを時折、思い出したかのように話してくれた。
 受診は二度目で、今回は精密検査だったそうだ。
 検査後、ドクターは『来週、親と一緒に来るように』と告げたそうだ。

「『念のために』なんて付け加えてたけど、俺も今日までネットで色々調べた。検査内容にしても、見せてくれた画像にしても、どっちも思い描いてた最悪のことだった。それが的中した感じ。ま、素人判断だけどね」

 唐揚げを頬張る星弥に、自分のなかの勇気を振り絞る。

「そんなのわからないよ。だって前よりもずっと早い発見だったんだし」
「前より?」

 星弥が首をかしげた。

「本当なら推薦入試の直後くらいだったはず。だから三カ月くらい発見が早かったことになる。きっと大丈夫。そうじゃなかったら、この夢の意味が……」

 ちゃんと伝えたいのに、あふれる涙が邪魔をする。
 こらえきれずに嗚咽を漏らす私の肩を星弥が抱いてくれた。
 違う。
 私は言いたいのは、あきらめないでってこと。

 ぼやけた視界でおばさんを見ると、真っ青な顔で固まっていた。

「たしかに、まだ正式に言われたわけじゃないしな。ごちそうさま」

 そう言うと、星弥は立ちあがった。
 顔色だって悪くないし、いつもと変わりないように見える。
 こんな早い段階から病魔がむしばんでいたなんて知らなかった……。

「今日はもう寝るよ。なんか、疲れちゃってさ」

 私の頭をくしゃっと触った星弥に、「うん」とうなずいた。
 離された手がさみしくても、本当に悲しいのは星弥だから。
 ぐっとこらえる私に星弥はやさしい目を送ってくれた。

「泣かせてごめん。まだはっきりしてないわけだし、月穂の言うように前向きにならないとな。母さん、あとは頼んでいい?」
「……ちゃんと送っていくから」

 ようやくフリーズが解けたおばさんにうなずくと、星弥はリビングを出て行った。
 閉じられたドア。こぼれる涙を拭い呼吸を整える。

 まだわからない。
 まだ泣いちゃいけない。
 まだあきらめない。

 そうだよ、この夢を見ることに意味があるのなら、きっとうまくいくはず。