けれど星弥はどこか疲れたように、少し口角をあげるとテーブルの椅子に座った。

 どうしたの……?

「ごめん。待たせてごめん」

 いつもと違う様子に、おばさんも包丁を動かす手を止めた。
 油の跳ねる音だけが静かに響く。

「待ってないよ、大丈夫」

 ううん、それより今はふたりに話をしよう。
 口を開きかけると同時に「あのさ」と星弥が言った。
 無理して明るい声を出しているのがわかる。星弥の目が私を見つめた。

「今日さ、学校のあと行ってきたんだ」

 おばさんがなにも言わないので、
「……どこに?」
 私が尋ねた。

 さっきまでのうれしい気持ちは、イヤな予感に変わっている。
 星弥は少し黙って髪をガシガシとかいてから言った。

「病院だよ。ほら、月穂が前に行けって言ったじゃん」
「病院。行ってくれたんだ……」

 ああ、よかった。
 前回の夢は無駄じゃなかった。
 これで未来が変わるかもしれない。
 安堵の息をつく私に、星弥は「なんかさ」と続けた。
 そのトーンは重く、一瞬で私を不安にさせた。

「どうやら、俺、死ぬらしいよ」

 それは、天気の話でもするみたいな軽い口調だった。