私にとってまたもやサプライズ。

 安部君は、最後のリレー種目のA、Bのどちらにも出ていたのだ。

 リレーの練習なんてしてたっけ?
 知らない。
 でもそんなことどうでもいい。

 一番滑走の安部君は、信じられないくらい速かった。中学生の時陸上部だった私は、安倍君の走りの美しさにも目を見張った。
 私は涙を滲ませながら、声が枯れるほど応援した。タオルを振り回して。

「安倍君、頑張れ! 頑張れ!」

 やっぱり安部君かっこいい!  かっこいいよ! めちゃくちゃ輝いてるよ!

 私は安倍君の勇姿を目に、心に焼き付けた。


 昼間は暑かったのに、夕方になると風がわずかに涼しく感じられる。
 体育祭が終わってしまい、片付けをしていても私の興奮は冷めなかった。

 どうしても今の気持ちを安倍君に伝えたい! 

 友達がそばにいたけれど、幸い安倍君は一人だった。私は安部君に駆け寄った。両手で拳を握りしめて、力一杯話しかけた。

「安部君! リレー、凄く速かったね!!」

 安部君はちょっと驚いた顔をした。私を安倍君が認識する。やや表情を和らげて、

「……疲れてしまった」

 といつもの低い声で言った。

 二回も走ったんだもん。疲れたよね! と私は心の中で思い、そして、挨拶以外の会話ができたことに、もう幸せいっぱいになって、

「お疲れさまっ!」

 と言った。

 言えた!
 
 言い方が自分のキャラに合っていない気がして、急に恥ずかしくなって走ってその場を離れた。

 それでも、体育祭当日に自分の素直な気持ちを伝えられたのがとにかく嬉しくて。
 私は実際に飛び跳ね、子供のように幸せを噛み締めたのだった。

 こうして、幸せ過ぎるほどの体育祭は幕を閉じた。

 祭りのあとの寂しさ。こんなにも感じたことはない。進学校だった私の出身高校は、体育祭を機にガラリと受験モードに入る。

 もう、体育祭関係で安部君の姿を見ることもないんだ。せっかく少し話せたのに。
 そう思うと、その夜はなかなか寝付けなかった。