思うに、恋とはショーケースの中の宝石を一方から眺めているようなものではないだろうか。人間にはいろんな面があるのにも関わらず、綺麗な面しか見えなくなってくる。手が届かないからこそさらに美化され、本当の姿を見失っていくのかもしれない。

 私はそんな恋に次第に侵されていった。

 そしていつの間にか、綺麗な安部君のお目汚しになってはいけない、とまで卑屈になってしまった。

 安部君を直視できなくなり、後ろから後頭部を眺めてキュンとするようななんとも一方的な想いを育んでいった。

***

 安部君を見つめては、目が合いそうになったら顔をふせ、心の中で挨拶はするけど言葉には出せない。
 そんなどこか歪んだ恋が私を支配する。


「気合い」発言以来、会話をすることもないままクラス替えを迎えた。

 安部君は理系、私は文系に進み、そのことで接点がほとんどなくなったとき、私はようやく安部君の部室が隣の隣にあることを知った。

 そして、彼が自転車をその部室の前に止めていることも。

 真正面に立つ自信はないけれど、でも姿は一目でもいいから見たい。私は理由もないのにやたらと部室に行くようになった。ストーカーじみていたとは思う。

 毎朝安部君の自転車を見つけては、今日も来てると嬉しく思い、自転車がないと安部君は体調が悪いのだろうかと不安になった。

 部活が一緒の友達を待つときには、部室の外に腰掛け、安部君が自分の部室に入っていくのを見ては俯きながら笑みをもらした。そして、自転車で帰る安部君の背中に、心の中で「バイバイ」と声をかけた。

 そんな状況で恋が進展するわけもなく……。

 学年集会がある度にドキドキして、安部君を後ろから見つめて、つむじが可愛いな、とか今退屈そう、とか勝手なことを心の中で膨らませて満足していた。

 ある意味ショーケースの外から見つめるだけというのは幸せなのかもしれない。

 結局自己満足しか得られないまま高校二年の日々は過ぎた。

 満足できていたならそれで良かったのに。その方が幸せだったのに。それでは足りないと私は思うようになる。

 安部君と同じクラスの友達から、安部君の志望校を聞いた。私が目指している県内の大学ではなく、かなり遠い県外の有名国立大学だった。

 私は。

 このまま挨拶も出来ないままじゃ嫌だと思った。
 卒業するまでに、せめて友達ぐらいにはなっていたい。そして、安部君と色んな話をしてみたい。

 想いは膨らむ。

 そして。私は行動をすることにした。