母からもらったチケットの映画はパニック系だった。
私は悲鳴を堪えるのでいっぱいいっぱい。
しかもエアコンが効き過ぎていて、鼻がズルズル言いだした。隣に安倍君がいるのに、恥ずかしい。
安部君は長い足を組み直したり、コーラを飲んだりする以外は身動きしなかった。
寒くてトイレに行きたくなる。でも、通路側は安倍君。安部君の前を通るの申し訳なくて、上映中は我慢した。
映画が終わり、私は、
「ちょっとトイレ、行っていい?」
と恥ずかしいけど訊いた。
「俺、この後すぐバイトなんだけど……」
「ちょっと待っててよ?」
私は安部君から買ってもらったコーラをなんとなく捨てられず、安部君に持ってもらってトイレに。
映画館を出ると、安部君は速足で歩き出した。無言。私はちょこちょことその後ろをついて行く。なんだか虚しい。
私は映画に誘ったことをじわじわと後悔していた。
「あの……どこのケン◯ッキーでバイトしてるの?」
安部君は答えなかった。
ああ、これは拒絶だと思った。来て欲しくないんだ。
私は悲しくなりトボトボと歩く。
「じゃあ、このまま行くから」
「気をつけて」
それで、おしまい。
時間かけて服を選んで、初めてファンデを塗って。
私に残ったのは氷だけになったコーラの容器。
私、何をしてるんだろう。
帰りのバスで私は涙を堪えることが出来ずに、人目があるのに泣いた。ポケットティッシュを使い切るまで。
家に着き、私はぼんやりとベッドに横になった。
頭がガンガンする。
映画に誘うのではなかった。
はっきりとそう思った。
私は持って帰ってきたコーラの容器を捨てて、チケットの半券を破った。
涙がとめどなく溢れる。
私の中に溜まっていた花びらの燃えかすが一気に外へ舞っていく。
ああ。私の想いが……消えてしまう?
来なかった時点で諦めて帰れば良かったのだ。電話なんてせず。
それでも、安部君が来てくれたとき、それまで渦巻いていた怒りがみるみるしぼんでしまった。そんな自分に腹が立つ。
映画館で私を内側の席に入れてくれたことも嬉しかったし、隣に座っていてドキドキした。それが悔しい。本当に恋は盲目。
でも、安部君の世界の中に私はこれっぽっちもいないことがよくわかった。
父の住む家に電話で報告をすると母は激怒。
「もうやめなさい、そんな人!」
私はその後、母が不在だったのもあり、一人家で泣き暮らした。何を食べていたかも思い出せない。ぼんやりと椅子に座って、ただ、涙を流し続けた。
私は三年間もの想いを断たなければならないのだろうか。
ずっと毎日安部君のことを考えていた。それをなかったことにするのは、まるで私自身を消すような気がして悲しかった。
綺麗だった花びらは跡形もなく消えて、干からびた花びらも、燃えかすも全部消えて、私は空っぽになる。何も残らない。
何日経っただろう。
電話が鳴った。
「花木、何してんの? もう予備校始まってるよ?」
予備校の友人からだった。
「え? 今日何日?」
「7月21日だよ?」
5日が経っていた。
それから私は勉強に打ち込むことにした。安倍君への電話もやめた。恋も終わって、大学も落ちてじゃ救いがない。ひたすら机に向かう。
安部君のことは考えないようにしても考えてしまう。
予備校に偶然停めてあるドラッグスターのバイクを見る度、心がきゅうと痛む。
夢にも見る。夢の中の安倍君はロン毛でも色黒でもなくて、高校生のままだ。
夢から覚めると涙が出る。あの頃はまだ花びら綺麗だったのにな。
私は期待してしまっていた。名前を覚えてくれた安倍君のお母さん、弟さん。家族と少し話せるようになったって本人と仲良くなったわけじゃないのに。
馬鹿だったな、私。
迷ったけれど、年賀状だけ出した。
安部君が勉強をしているか心配になってしまい、「勉強頑張ろうね」と一言。
返事はなかった。
私は悲鳴を堪えるのでいっぱいいっぱい。
しかもエアコンが効き過ぎていて、鼻がズルズル言いだした。隣に安倍君がいるのに、恥ずかしい。
安部君は長い足を組み直したり、コーラを飲んだりする以外は身動きしなかった。
寒くてトイレに行きたくなる。でも、通路側は安倍君。安部君の前を通るの申し訳なくて、上映中は我慢した。
映画が終わり、私は、
「ちょっとトイレ、行っていい?」
と恥ずかしいけど訊いた。
「俺、この後すぐバイトなんだけど……」
「ちょっと待っててよ?」
私は安部君から買ってもらったコーラをなんとなく捨てられず、安部君に持ってもらってトイレに。
映画館を出ると、安部君は速足で歩き出した。無言。私はちょこちょことその後ろをついて行く。なんだか虚しい。
私は映画に誘ったことをじわじわと後悔していた。
「あの……どこのケン◯ッキーでバイトしてるの?」
安部君は答えなかった。
ああ、これは拒絶だと思った。来て欲しくないんだ。
私は悲しくなりトボトボと歩く。
「じゃあ、このまま行くから」
「気をつけて」
それで、おしまい。
時間かけて服を選んで、初めてファンデを塗って。
私に残ったのは氷だけになったコーラの容器。
私、何をしてるんだろう。
帰りのバスで私は涙を堪えることが出来ずに、人目があるのに泣いた。ポケットティッシュを使い切るまで。
家に着き、私はぼんやりとベッドに横になった。
頭がガンガンする。
映画に誘うのではなかった。
はっきりとそう思った。
私は持って帰ってきたコーラの容器を捨てて、チケットの半券を破った。
涙がとめどなく溢れる。
私の中に溜まっていた花びらの燃えかすが一気に外へ舞っていく。
ああ。私の想いが……消えてしまう?
来なかった時点で諦めて帰れば良かったのだ。電話なんてせず。
それでも、安部君が来てくれたとき、それまで渦巻いていた怒りがみるみるしぼんでしまった。そんな自分に腹が立つ。
映画館で私を内側の席に入れてくれたことも嬉しかったし、隣に座っていてドキドキした。それが悔しい。本当に恋は盲目。
でも、安部君の世界の中に私はこれっぽっちもいないことがよくわかった。
父の住む家に電話で報告をすると母は激怒。
「もうやめなさい、そんな人!」
私はその後、母が不在だったのもあり、一人家で泣き暮らした。何を食べていたかも思い出せない。ぼんやりと椅子に座って、ただ、涙を流し続けた。
私は三年間もの想いを断たなければならないのだろうか。
ずっと毎日安部君のことを考えていた。それをなかったことにするのは、まるで私自身を消すような気がして悲しかった。
綺麗だった花びらは跡形もなく消えて、干からびた花びらも、燃えかすも全部消えて、私は空っぽになる。何も残らない。
何日経っただろう。
電話が鳴った。
「花木、何してんの? もう予備校始まってるよ?」
予備校の友人からだった。
「え? 今日何日?」
「7月21日だよ?」
5日が経っていた。
それから私は勉強に打ち込むことにした。安倍君への電話もやめた。恋も終わって、大学も落ちてじゃ救いがない。ひたすら机に向かう。
安部君のことは考えないようにしても考えてしまう。
予備校に偶然停めてあるドラッグスターのバイクを見る度、心がきゅうと痛む。
夢にも見る。夢の中の安倍君はロン毛でも色黒でもなくて、高校生のままだ。
夢から覚めると涙が出る。あの頃はまだ花びら綺麗だったのにな。
私は期待してしまっていた。名前を覚えてくれた安倍君のお母さん、弟さん。家族と少し話せるようになったって本人と仲良くなったわけじゃないのに。
馬鹿だったな、私。
迷ったけれど、年賀状だけ出した。
安部君が勉強をしているか心配になってしまい、「勉強頑張ろうね」と一言。
返事はなかった。