私は15分前からまた待ち始めた。
 5分前くらいに来てくれないと誠意がないと思った。
 私は腕時計をちらちら見ながら安部君を待った。

 バイクで来るとは思わなかったが、大きなバイクが通る度に目で追ってしまう自分がいた。

 銀色のバイクに乗る人が近くを通る。安倍君とは容姿が違う。
 そのバイクはしばらくしてまた引き返してきてどこかへ消えた。

 私はまた時計を見た。

 1時を回った。

 私は絶望的になった。

 涙が出そうになる。このまま来なかったら私はどうなるんだろう。
 諦めて帰った方がいいのかな。
 呼び出しなんてしなければよかったのかな。

 また時計を見てため息をついた時、ジーンズに白のTシャツ姿の背の高い男性が近づいて来た。

 安部君の容姿について今まで触れてこなかったが、彼はとにかく背が高く、そして色白でスポーツ刈りがよく似合う男子だった。

 なので、色黒で茶色いロン毛のその男性が、

「もう1時過ぎてる?」

 と言葉を発した時には、驚きと戸惑いでいっぱいだった。

 だ、誰? も、もしかして安部君、なの?!

 おそるおそるその男性を見つめる。

 あ。
 安部君……だ……。

「バイク停めるところが見つからなくて、何回もここ通ったんだけど」
「バイクで来たの?」
「うん」
「ずいぶん髪、伸びたね」

 今思えばエクステか何かだったのだろうけど、私は気が動転してわからなかった。

「ああ。どっち?」
「こっち」

 私と安倍君は歩き出す。やっぱり隣を歩くのははばかられて、少し後ろを早足でついていった。安倍君は足が長いので一歩が大きいのだ。

「バイトの飲み会が昨日あって、夜中の2時過ぎに帰ったから寝てなくて」

 そう聞いて、私はふう、と嘆息した。

「寝てたの?」
「11時半まで」

 11時半。待ち合わせの時間だった。
 このとき、私は仕方ないと思ってしまった。
 今思えば情けない。友達にだったら、私は人としてどうかと意見できるタイプなのに。

 映画館に着くと、安部君はコーラを買ってきた。

「いくら?」 

 ときくと、要らないというように手を振った。

「1600円か……」

 安部君は映画のチケットを見ながら言った。

「気にしないで。貰い物だから」

 チケット代は気になるんだ……。
 私を待たせたことを気にして欲しかった。

 映画が始まるまで暇だった。

「えっと、安部君、背、高いよね。どのくらいあるの?」
「184センチ」

 それだけで会話も終わってしまい、無言の時間が流れる。前に座った女子たちが、こちらを見てくすりと笑った。
 私は居たたまれなくて下を向いた。
 だから映画のCMが始まったとき、私はホッとした。