映画に行く一週間前ぐらいに、私はもう一度安部君に電話をした。
 映画の時間を決めて、待ち合わせ時刻と場所も決めた。

 購入したバイクの話を安部君はしてくれた。「ドラッグスター」という名の銀色を購入したという。改造して渋い音が出るようになって気に入ってるようだ。

 改造?

 私は一瞬よぎった疑問符を振り払った。

 弟にどんなバイクか訊くと、私のあまり好きなタイプでないハーレー型のバイクのようだ。

 何かもやもやする。
 安部君は確かに身体が大きいから大きめのバイクの方がいいのだろうけど。

 大丈夫。安部君は安部君だ。と自分に言い聞かせる。

 安倍君の情報が少しずつ増えていく。それは同時に自分の知らなかった安部君がどんどん増えていくことで。
 私の好きな安倍君像が急に変わりだす。

 心の中には綺麗な想いの花びらではなくて、正体の掴めない不安という花びらが積もっていく。
 私の恋心はもう燃えかすになってしまったのだろうか。それなら不安も燃えてしまえばいいのに。