盲目だった私

 梅雨もあけない六月後半。
 母から映画のチケットをもらった。

「安部君、誘いなさいよ」

 安部君が気に入っている母はそう言った。

 私は映画に誘ったときの安部君の反応が容易に想像できた。
 それはいいイメージではなかった。
 それでも会ってみたいという方が勝り、迷った挙句誘うことにした。


「映画のチケットを母からもらったんだけど、よかったら一緒に行かない?」

 予想通りの沈黙がきた。
 私は内心がっかりしながらも、あとに引けなくなって言った。

「タダで見れるよ? お得じゃない?」

 自分でもいやらしい言い方だと思った。
 たぶん安部君はこんなことでつられるような人じゃないのに。

「タダ……」

 安部君はなんとその言葉に反応した。

「別にいいけど?」
 
 嘘?! 私、安部君に会えるの?!

「ほんと? 本当にいいの?」
 
 念を押すように訊いた私に、安部君はぼそりと、

「どうでもいい」

 と言った。
 グサリと胸が痛んだ。

 どうでもいいって……。
 
 その言葉に安部君の本心が凝縮されている気がした。
 映画はどうでもいい。じゃなくて、私のこともどうでもいい。
 安部君は思っているに違いない。

 でも。

「じゃあ、行こう!」
 
 私はプライドもなにもかもこの時捨ててしまったのかもしれない。

「いつ行くの?」

 結局予備校の夏休みの日に行くことが決まった。

 私は「また日にちが近くなったら連絡するね」と言って電話を切った。
 安部君を信用していなかった。
 電話をかけないと忘れちゃうんじゃないかって。だって、「どうでもいい」んだもんね。

 無理やり約束を取り付けたというのに、私はそんな不安に気付かないふりして、安部君に会えるということに浮かれた。
 本当に馬鹿だ。