卒業式が終わってから何日が過ぎただろうか。
私は悶々と毎日を過ごしていた。
待っても待っても電話はこない。
理由は、分かっているような、分かっていないような。複雑だ。
私は安部君の受験結果を知っていた。
第一志望は落ちて、私の第一志望に受かっている。
それで連絡し難いのかもしれないし、私に結果を教える必要を感じないからかもしれない。
私はというと第一志望は落ちて、そして一応受けてみた後期試験の大学は受かっていた。
進路の相談にのってくれていた高校の先生からは、私が受かった大学では私の勉強したいことは出来ないだろうと言われ、私は浪人することを心に決めていた。母からは猛反対をされているけれど。
電話が鳴っていないのに、鳴って欲しいから着信音の幻聴が聞こえる。
それをかき消そうとひたすらピアノを弾いた。
心が病みそうだ。
連絡がないというのが返事。冷静に考えればわかることだ。でも、私はどうしても自分の気持ちを抑えることが出来なかった。
連絡が欲しい。
ないなら、こちらからするしかない。
卒業式前日にかけた電話での楽しい感覚が私の中には残っていた。
もしかしたら、電話でならまた話が弾むかもしれない。
私は電話をしてしまった。
今思えば、ボタンをもらった時点で私は満足すべきだった。
もしくはもう少し後で電話をすべきだった。
この電話を私は今も後悔している。
「あの、俊輔さんいらっしゃいますか?」
「はい」
「あ、ええっと、本人さんですか?」
「はい」
未だに安部君の声を識別出来ない自分が悲しい。
訪れたのは沈黙。
ダメだ。前回の電話の時と全く違う雰囲気だ。重苦しい。
学校での安部君の感じなのだろうか。そうなら、また何も話せないまま終わってしまうのだろうか。
考えるだけで心が折れそうになる。
でも、電話したのは私なのだ。ここで私が黙ってしまっては駄目だ。先に進まない。
私は息を大きく吸って、話を切り出した。
まず、私は自分の入試の結果を話した。そして、浪人することまで伝えた。
ようやく口を開いた安部君の第一声は、
「浪人するんだね」
だった。
「実は、明日が受かった大学手続きの締め切りなんだけど、まだ迷っている」
私はなんて間が悪いときに電話してしまったんだろう。
安部君は私の選択に少なからず心を動かされてしまったようだった。
「余裕で第一志望の大学に合格する域に達したい」
安部君の口からそう言葉が出たとき、私はとても複雑な気持ちになった。
安倍君の友達とも言えない私の言葉が、安倍君の大切な選択に影響を与えてしまったのだとしたら。その選択が良いのか悪いのかわからないのに。これで良いのだろうか。
心はもやもやする。けれど口は止まらない。沈黙は怖い。
教科の話になり、安部君が私の苦手科目が英語だと覚えていたことに感動した。話題は次第に予備校のことになった。
「どこ行くか決めたの?」
私は出身高校からだとかなりの金額が安くなる地元の予備校に決めていた。親に高額な負担をさせるのが嫌だったからだ。
でも、安部君の志望校には不向きだと思っていた。志望校のレベルからだと、安倍君はもっと大きい予備校の方がいい。
私はいくつかの予備校の説明会に行ったこともあり、私の感じたままに予備校について話をした。
安部君は興味深そうに聞いていた。そして、私がイチオシした予備校に随分と気持ちが傾いてしまった。
私は言いようのない不安を感じた。
「でも、私、浪人しろって言ってる訳じゃないよ? どちらを選ぶにしろ、お互い頑張りましょう」
「うん、頑張ってね」
電話を切ってからも、足下にぽっかりと穴が空いているような心もとなさが残った。
私、電話して良かったのかな。
だ、大丈夫だよ。安倍君はしっかり自分がある人だもの。最後は自分で決める。私みたいな友達でもない人に左右なんかされない。
自分に言い聞かせた。
私は悶々と毎日を過ごしていた。
待っても待っても電話はこない。
理由は、分かっているような、分かっていないような。複雑だ。
私は安部君の受験結果を知っていた。
第一志望は落ちて、私の第一志望に受かっている。
それで連絡し難いのかもしれないし、私に結果を教える必要を感じないからかもしれない。
私はというと第一志望は落ちて、そして一応受けてみた後期試験の大学は受かっていた。
進路の相談にのってくれていた高校の先生からは、私が受かった大学では私の勉強したいことは出来ないだろうと言われ、私は浪人することを心に決めていた。母からは猛反対をされているけれど。
電話が鳴っていないのに、鳴って欲しいから着信音の幻聴が聞こえる。
それをかき消そうとひたすらピアノを弾いた。
心が病みそうだ。
連絡がないというのが返事。冷静に考えればわかることだ。でも、私はどうしても自分の気持ちを抑えることが出来なかった。
連絡が欲しい。
ないなら、こちらからするしかない。
卒業式前日にかけた電話での楽しい感覚が私の中には残っていた。
もしかしたら、電話でならまた話が弾むかもしれない。
私は電話をしてしまった。
今思えば、ボタンをもらった時点で私は満足すべきだった。
もしくはもう少し後で電話をすべきだった。
この電話を私は今も後悔している。
「あの、俊輔さんいらっしゃいますか?」
「はい」
「あ、ええっと、本人さんですか?」
「はい」
未だに安部君の声を識別出来ない自分が悲しい。
訪れたのは沈黙。
ダメだ。前回の電話の時と全く違う雰囲気だ。重苦しい。
学校での安部君の感じなのだろうか。そうなら、また何も話せないまま終わってしまうのだろうか。
考えるだけで心が折れそうになる。
でも、電話したのは私なのだ。ここで私が黙ってしまっては駄目だ。先に進まない。
私は息を大きく吸って、話を切り出した。
まず、私は自分の入試の結果を話した。そして、浪人することまで伝えた。
ようやく口を開いた安部君の第一声は、
「浪人するんだね」
だった。
「実は、明日が受かった大学手続きの締め切りなんだけど、まだ迷っている」
私はなんて間が悪いときに電話してしまったんだろう。
安部君は私の選択に少なからず心を動かされてしまったようだった。
「余裕で第一志望の大学に合格する域に達したい」
安部君の口からそう言葉が出たとき、私はとても複雑な気持ちになった。
安倍君の友達とも言えない私の言葉が、安倍君の大切な選択に影響を与えてしまったのだとしたら。その選択が良いのか悪いのかわからないのに。これで良いのだろうか。
心はもやもやする。けれど口は止まらない。沈黙は怖い。
教科の話になり、安部君が私の苦手科目が英語だと覚えていたことに感動した。話題は次第に予備校のことになった。
「どこ行くか決めたの?」
私は出身高校からだとかなりの金額が安くなる地元の予備校に決めていた。親に高額な負担をさせるのが嫌だったからだ。
でも、安部君の志望校には不向きだと思っていた。志望校のレベルからだと、安倍君はもっと大きい予備校の方がいい。
私はいくつかの予備校の説明会に行ったこともあり、私の感じたままに予備校について話をした。
安部君は興味深そうに聞いていた。そして、私がイチオシした予備校に随分と気持ちが傾いてしまった。
私は言いようのない不安を感じた。
「でも、私、浪人しろって言ってる訳じゃないよ? どちらを選ぶにしろ、お互い頑張りましょう」
「うん、頑張ってね」
電話を切ってからも、足下にぽっかりと穴が空いているような心もとなさが残った。
私、電話して良かったのかな。
だ、大丈夫だよ。安倍君はしっかり自分がある人だもの。最後は自分で決める。私みたいな友達でもない人に左右なんかされない。
自分に言い聞かせた。