盲目だった私


 卒業式の間中、私はドキドキソワソワしていた。
 昨日の電話は本当に夢ではないのだろうか。
 ボタンもらう時、安部君、昨日みたいに優しいかな。
 誰にも冷やかされないかな。

 式は練習通りに進んでいった。なんだか他人事みたいだ。
 それでも校歌を歌うときだけ、もう歌うこともないのかなと、ウルっとしてしまった。

 式は無事終了。
 私のメインイベントはこれからだ。

 クラスの友人たちと写真をとって、部活の後輩からも祝福されて。

 私は、「さあ、行くぞ!」と意気込んで、安部君の部室のドアを叩いた。

 すぐに本人が出て来て驚いた。しかも。

「ありがとうございます」

 と安部君は言ったのだ。

 なんのありがとう?
 意味を測りかねて、私はちょっと戸惑ったが、

「あのぅ」

 と切り出した。

 安部君は部室のドアを閉めて、辺りを見回した。

「どうしようか?」

 沈黙。
 ちょ、ちょっと待って。結局、もらえないってオチじゃないよね?
 と段々不安になったところへ、

「あの、これ、もう付け替えてて、ここにとってあるボタンがあるんだけど、それでも良ければ」

 と安部君。

 安部君、神!

 私はコクコクと頷いた。

「では、さようなら」

 と部室に入ろうとする安部君を私は、

「あの、手紙書いてもいいかな?」

 と辛うじて呼び止めた。

「はい」

 安部君は振り向いて一言だけ返事をする。

 うーん、やっぱり電話の時と違う……。声が硬い。もしかして、やっぱり困っているのかな。

「安部君があっちになれるまででいいからさ。誰も知り合いいないとさびしーじゃん?」
「でもまだきまったわけじゃあ……」

 そ、そっか!!

 私は赤面。安部君は笑った。
 私はなんてとんちんかんなことを言ってしまったのか。

「あの、じゃあ、決まったら連絡欲しいんだけど、いいかなあ」
「はい」
「えーと、電話番号わかる?」
「卒業アルバム見れば。それじゃあ」
「うん、ありがとう」

 短い短い会話。
 でも、安部君、一応照れ笑いっぽいものを浮かべていた。
 初めて見る表情だった。

 これで良かったのかな。

 私はボタンを落として無くさないようにと、ボタンに鈴をつけた。猫じゃあるまいし、とは思ったけれど、それだけ大切だったのだ。

 家に帰ると、急に寂しさが湧いてきた。

 今までずっと一緒に過ごしてきた友達とも進路が違ってばらばらになる。

 やっと少し笑ってくれた安部君とも、もう会えなくなるのだ。

 そう思って。

『会えない? そんなの、そんなの嫌だ!』

 心が叫びをあげた。

 学校では自転車で存在を確認出来たし、卒業式には会えるって思っていたから、なんとか会えない日も過ごせてた。

 でも、もう会えない。会えないんだ。

 私は悲しみと不安で眠れない夜を過ごした。
 これからどうなるのかな。

 入試の結果がどうかなんて頭の片隅に追いやられていた。