私は人生で一番長い三十分をドキドキしながら過ごし、再び安部君に電話をかけた。
そして。
その時の衝撃は今も忘れられない。
「はい、安部です」
間違いなく本人の声。私の緊張は頂点に達した。
「で、電話してごめんね」
裏返る声で恐る恐る言う。
え? 私は耳を疑った。
安部君は、
「いや、別に」
と笑っていた。
笑っていたのだ。
私は驚いたけれど、安部君の笑う声に勇気をもらって、告白をし直すことにした。
「その……。一年の二学期頃から安部君のこと気になりだしまして……。大学に行ったらバラバラになるでしょ?」
「そうだね」
「だから焦って夏に言っちゃったの。友達になってみようと思って。ごめんね、受験期に」
「いや、そんな」
「いろいろ話をしてみたくて」
「あー、そうなんだ」
私は誰と話しているか分からなくなりそうだった。
それほど安部君は学校の時とは全く違って、声も優しく、そして何より、笑ってくれていた。
ともすると夢心地になって意識が飛びそうになる自分に、自分で叱咤する。
今日はボタンをもらう約束をするという任務を遂行しなければならないのだ。
「あの、大学、学部は結局どっちにしたの?」
「あー、医学部受けようと思ってたけど、工学部の情報科受けた」
「そーなんだ?」
「パソコンにハマってて」
パソコンにはまって志望学部変更?
私の知っている安部君像が塗り替えられていく。
「パソコンやんないの?」
私は当時、自分が機械音痴でカーソルも上手く使えないことを伝えた。
安部君は笑って、
「まあ、練習したら使えるようになるよ」
とフォローまで入れてくれた。
時間が瞬く間に過ぎる。
私は安部君との初めての電話で、色々な情報を得た。
安部君は中学生の時は陸上部だったから足が速いとか。
高校の山岳部で行った山は素晴らしいから、ぜひ行ってみるといいとか。
「なんか、いつも無口だからびっくり! 部活の仲間とかとはよく喋ってるから、羨ましい! ちくしょーとか思ってた」
「うーん。学校ではあんまり喋れないね。人見知りもあるし」
なるほど。安部君は堂々としていると思っていたけれど、人見知りだったのか。なんだか意外過ぎてアリスになった気分だ。
私は安部君の気持ちがずっと気になっていて、でも迷惑になるのは嫌で、嫌われたくなくて、色々気を揉んでいたことを伝えてしまった。
すると、安部君は少し驚いたようだった。
どうやら普段の私はそんなに悩むタイプに見えないらしい。
「心とかって、考えるの大切だと思うし、考えないよりずっといいよね」
と言ってくれた。
「もっと前に話しておけば良かった」
と私が言うと、安部君は笑った。
そして、ボタンのことを頼むと、
「あー、いいけど、うん」
と言ってくれたのだった!
現実? 本当に夢じゃない?
「卒業式の後、安部君部室にいる?」
「あ、多分寄ると思うけど」
「ボタン、部室に取りに行ったら、色々言われちゃう?」
「あー、そうだね。どうしようか?」
沈黙。
折角約束してもらえたのに、ボタンがもらえないんじゃ意味ない……。
しょげている私の空気が伝わったのか、安部君は、
「じゃあ、部室来て」
と言ってくれた!
「い、いいのー?!」
「うん」
「じゃあ、卒業式の後ね!」
「うん」
「じゃ、大学行っても頑張ろうね! 私、浪人してるかもしれんけど」
「俺も理科がちょっと解けんかったから、心配。好きなんだけどねー」
そんな話をして電話を終えた。
三十分ほど電話をしただけなのに、身体中が熱くなって、そして、幸せだったからか、大きな息が漏れた。
思えばこの時が一番幸せだったと思う。
そして。
その時の衝撃は今も忘れられない。
「はい、安部です」
間違いなく本人の声。私の緊張は頂点に達した。
「で、電話してごめんね」
裏返る声で恐る恐る言う。
え? 私は耳を疑った。
安部君は、
「いや、別に」
と笑っていた。
笑っていたのだ。
私は驚いたけれど、安部君の笑う声に勇気をもらって、告白をし直すことにした。
「その……。一年の二学期頃から安部君のこと気になりだしまして……。大学に行ったらバラバラになるでしょ?」
「そうだね」
「だから焦って夏に言っちゃったの。友達になってみようと思って。ごめんね、受験期に」
「いや、そんな」
「いろいろ話をしてみたくて」
「あー、そうなんだ」
私は誰と話しているか分からなくなりそうだった。
それほど安部君は学校の時とは全く違って、声も優しく、そして何より、笑ってくれていた。
ともすると夢心地になって意識が飛びそうになる自分に、自分で叱咤する。
今日はボタンをもらう約束をするという任務を遂行しなければならないのだ。
「あの、大学、学部は結局どっちにしたの?」
「あー、医学部受けようと思ってたけど、工学部の情報科受けた」
「そーなんだ?」
「パソコンにハマってて」
パソコンにはまって志望学部変更?
私の知っている安部君像が塗り替えられていく。
「パソコンやんないの?」
私は当時、自分が機械音痴でカーソルも上手く使えないことを伝えた。
安部君は笑って、
「まあ、練習したら使えるようになるよ」
とフォローまで入れてくれた。
時間が瞬く間に過ぎる。
私は安部君との初めての電話で、色々な情報を得た。
安部君は中学生の時は陸上部だったから足が速いとか。
高校の山岳部で行った山は素晴らしいから、ぜひ行ってみるといいとか。
「なんか、いつも無口だからびっくり! 部活の仲間とかとはよく喋ってるから、羨ましい! ちくしょーとか思ってた」
「うーん。学校ではあんまり喋れないね。人見知りもあるし」
なるほど。安部君は堂々としていると思っていたけれど、人見知りだったのか。なんだか意外過ぎてアリスになった気分だ。
私は安部君の気持ちがずっと気になっていて、でも迷惑になるのは嫌で、嫌われたくなくて、色々気を揉んでいたことを伝えてしまった。
すると、安部君は少し驚いたようだった。
どうやら普段の私はそんなに悩むタイプに見えないらしい。
「心とかって、考えるの大切だと思うし、考えないよりずっといいよね」
と言ってくれた。
「もっと前に話しておけば良かった」
と私が言うと、安部君は笑った。
そして、ボタンのことを頼むと、
「あー、いいけど、うん」
と言ってくれたのだった!
現実? 本当に夢じゃない?
「卒業式の後、安部君部室にいる?」
「あ、多分寄ると思うけど」
「ボタン、部室に取りに行ったら、色々言われちゃう?」
「あー、そうだね。どうしようか?」
沈黙。
折角約束してもらえたのに、ボタンがもらえないんじゃ意味ない……。
しょげている私の空気が伝わったのか、安部君は、
「じゃあ、部室来て」
と言ってくれた!
「い、いいのー?!」
「うん」
「じゃあ、卒業式の後ね!」
「うん」
「じゃ、大学行っても頑張ろうね! 私、浪人してるかもしれんけど」
「俺も理科がちょっと解けんかったから、心配。好きなんだけどねー」
そんな話をして電話を終えた。
三十分ほど電話をしただけなのに、身体中が熱くなって、そして、幸せだったからか、大きな息が漏れた。
思えばこの時が一番幸せだったと思う。