だって千聖くんは、私に踏み込まれたくないから小さな拒絶を示しているわけで。

「うーん……」

 タイミングを見計らっているだけでは何も進めない。時間だけがどんどん過ぎて、あのお守りは必要なくなってしまうかもしれない。

 あと一歩踏み込めない私は、愚かで。

 それでいて。

「弱虫だよね、私」

 全然変われてない。

 何も、何ひとつ。

「お姉ちゃんなのに全然ダメ」

 妹よりも一年早く生まれているのに全然姉らしいことなんかできていない。おまけに妹を突き放して、そして傷つけて。今さら元通りになれたら、なんてそんなのは都合がよすぎる。

「そんなことないよ」

 その言葉とともに、頭に感じた温もり。

 それは。

「そうやって自分のこと責めるのよくないよ」

 千聖くんが私の頭を優しく撫でていた。

「美月はちゃんと前進してる。たとえその一歩が数センチだったとしても、確実に進んでる。だから、落ち込む必要なんかないんだよ」

 真剣に話を聞いて、返事をくれる。

「焦る必要はない。自分のペースで少しずつでいい」

 私のことを慰めてくれる。勇気づけてくれる。

「……うん」

 それなのに私の頭を支配しているのは、神木さんの存在。

 中学の同級生だという神木さんは、背もスラッとしていて女の子らしくて、それでいて綺麗で。私なんかとは全然違って。

 もしかすると、神木さんは千聖くんの元恋人で、よりを戻したいから声をかけたのかもしれない。

 そう思うと、胸がぎゅっと苦しくなったんだ。


 ***


「あけましておめでとう、美月ちゃん」

 年末年始は、原さんとあまり会うことがなくて、三学期始まって初めての顔合わせに「あけましておめでとうございます」と返した。

 冬休みに入る前に原さんに相談をしてから、距離が近づいたのか、前より信頼できるようになった。

「お正月はゆっくりできたかな?」
「はい、できました」

 周りのパートさんたちの話によると、原さんは年末年始は地元に帰っていたらしい。九州だとかで、だからあまり顔を合わせることがなかったみたい。

「お正月におもち食べた? 私、おもちばかり食べちゃったからかなり太ったんだよねー。もう最悪」

 千聖くんといい原さんといい、二人ともおもちの話題ばかりで思わず「フッ」と笑ってしまう。

「え、美月ちゃんどうしたの?」
「あ、いや、この前もおもちの話をしたので思い出しちゃって……」

 気を抜くと、これだ。自然と笑みが漏れてしまう。今までこんなことなかったのに。