「それは……前に神木さんと付き合ってた……とか」

 だから私は、思い当たるふしだけを単刀直入に尋ねる。

「え、付き合って……?」
「う、うん。二人の関係がよそよそしかったから、そうなのかなって」

 中学の同級生だけなら、そんなに動揺しないはずだもん。

「違うよ、付き合ってないよ」

 私の言葉に呆れたように笑ったあと、そう答えた。

「え、でも……」

 私には、そういう関係に見えた。

「ほんとに何も、ないよ」

 私の言葉を遮って千聖くんは笑ったあと、目を逸らす。

「この前の子は中学の同級生。それ以上でもそれ以下でもないから」

 淡々と告げる声は、しっかりとしているのに。
 やっぱり私には、何かが引っかかって。

「だけど、神木さん……〝よかった、伏見くんが元気で〟って言ってたよ。それって何かあったからそんなこと言うんだよね?」

 何もなければ、そんなこと言わない。

 何かあるから、そんなことを言う。

「ううん、ほんとに何もないよ」

 けれど、彼はそれしか言わなくて。

「久しぶりに会ったからそんなこと言ったんだよ」

 吐く息が次々と空へ浮かぶ。間隔を空けずに。
 その息が、慌てているように感じて。

「で、でも……」

 問い詰めようと思った矢先、

「それより、あのお守り妹さんに渡せた?」

 矢継ぎ早に現れた言葉によって私の声は遮られる。

「え、あ……」

 わざと、話を逸らされた。

 これ以上踏み込んで来るな、と千聖くんなりの小さな拒絶。

 〝人間誰しも触れられたくない部分があって当たり前〟

 だから、きっと千聖くんにとっても触れられたくないことで。彼への問いをごくりと飲み込んで。

「それが、まだ……」

 これ以上、踏み込んでしまえば私は嫌われるかもしれない。

 嫌われたら私、またひとりぼっちになっちゃう。

 それだけは嫌だったから。

「タイミングがなかなか見つからなくて……」

 合わせていた視線を今度は私が逸らすと、そっかぁ、と相槌を打った彼は、

「一度距離ができるとそれを埋めようとするのは、かなり難しいよなぁ。何かキッカケでもあればいいんだろうけど」

 踏み込んでこないのを知ると、饒舌になる千聖くんの口。

 これでよかったのかもしれない。

「キッカケ……」

 今度は私の話に切り替わる。

「そうすればあと一歩踏み込むことができるんだけどね」

 まるでその言葉は、私と千聖くんの関係を表しているようだと思ったけれど、きっと違う。