それは友達以上のようなもので。だとすると、答えはひとつしかない。

 〝千聖くんの元彼女〟

 ──そんな予感がした。

「じゃあどうしてさっき急に帰っちゃうの?」

 少し距離を詰めて視界に映り込む。

 意地悪な質問だって知ってるけれど、聞かずにはいられなかった。

「それは、急用を思い出したから」

 すると、あからさまにフイッと目線を逸らすから。

「ほんとに?」

 千聖くんの心の中に勝手に踏み込んでしまう。

 私は、知りたいと思った。

 千聖くんがどんな人なのか。まだ私が知らない彼がいるなら見てみたいと思った。

「私はね、さっきの千聖くんたち、何かただならぬ関係に見えたよ」

 それがたとえ、知りたくないことだったとしても。
 私は、千聖くんのことを知りたかった。

 どうしてなのか分からなかったけれど。

「そんなわけないでしょ、神木さんとはただの中学の同級生なだけだから」
「じゃあどうしてあんな嘘をついたの? ただの同級生なら嘘つく必要なかったんじゃない」

 わざわざ私の手を握って彼女だと言う必要はなかったはず。

 それなのに嘘をついてまで誤魔化すってことは。

「……なにかがあるから嘘ついたんだよね?」

 私は、知りたいの。

 千聖くんのこと。

 千聖くんが私に優しくしてくれたみたいに、私だって千聖くんのこと支えてあげたいって思う。

「──ごめん、美月」

 けれど、千聖くんの口から現れた言葉は私が知りたいものではなかった。

「送るのここまででいい?」

 私を拒絶するものだった。

 今までなら千聖くんが私を突き放すことは絶対になかった。

 それなのに、今回は千聖くんから離れる。

「あのっ、ちょっと待って……! 今のは訂正!
 違うから……」

 私、距離を間違えた。

 ずかずかと踏み込みすぎた。

「俺から誘っといてほんとにごめん」

 一言残すと、私のそばから走って離れる。

「千聖くん……っ!」

 声をかけるけれど、彼は止まってくれなくて、どんどん離れてゆく。私は追いかけることもできず、その場でただただ後ろ姿を見つめているだけだった。