そばへ寄ると、千聖くんの鼻先は真っ赤に染まっていた。

 どれだけ待たせてしまったんだろう。

「俺こそいきなりごめんね。急に美月に会いたくなっちゃって」

 心配も杞憂に終わった。相変わらず彼は、歯の浮きそうな言葉を軽々と告げるから、

「な、何言ってるの……バカなんじゃないの」

 胸が早鐘を打った。それを隠すように目線を下げる。

 どうせ千聖くんにとってそんなこと言うのは、簡単で。言うなれば、息を吸うのと同じくらい容易いに決まってる。

「なにって俺の本音?」

 千聖くんにとって、べつに深い意味はない。

 だから、私が意識する必要もない。

「まぁ会いに来たのは、べつに理由もあるんだけど」
「……え?」
「うん。まぁとにかくここじゃああれだし行こうか」

 一言も説明してはくれなくて、

「え、だから、どういうこと……」

 私が尋ねたって一切答えるつもりはないらしく、その代わり突然私の手を取るから、ますます困惑して。

「え、あの、ちょっと待って……」

 振り解こうと試みるが、男の子の力に敵うはずもなくて。

「一緒に行ったら分かるから。ほら、早く行こうよ」

 少し強引な千聖くんに、ますますどきどきが止まらなくなる。

 どこへ連れて行かれるのか分からなくて不安がある一方で、千聖くんなら大丈夫だという安心感もあって。対照的な感情が混在している。

「……千聖くんってば、ほんとに勝手な人なんだから……」

 俯きがちに、ぽつりと呟くが、

「ん? なにか言った?」

 一瞬聞こえてしまったのかとドキッとするが、夜風のおかげで彼に聞こえてはいなかった。

 それからしばらくそのまま歩いた。

 繋がれた手のひらは優しく私を包み込み、一度も手放すことなく私を導いてゆく。

 夜風はすごく冷えるはずなのに、寒さなんて感じられないほどに、私の鼓動はうるさくて、まるで全力疾走しているようだった。