「そっかぁ、じゃあ仕方ないよね」
聞き分けの良い子どもみたいに微笑みながら頷いた。
「ご、ごめんね」
せっかく千聖くんが誘ってくれたのに。悪いことしちゃったなぁ。
「ううん、いいよ。でも来年のクリスマスは、ちゃんと予定空けておいてよね」
矢継ぎ早に現れた言葉に、え、と困惑した声を漏らす。
クリスマスという大事なイベントは、特別な人と過ごすことが定番だ。もちろん友達もその中に含まれるけれど、一般的には家族や恋人が主流。そんなイベント事に。
「来年は、一緒に過ごそうよ」
千聖くんは、軽々しく私を誘う。
一体どういう理由だろう?
どういう意味なんだろう?
なんて考えなくてもすぐに答えは見つかって。
きっと、私のことを一人にさせないために、早くも来年の予定を取り付けたのかもしれない。
「うん、分かった」
千聖くんと一緒に過ごすことができるなら、たとえそれが同情だとしても構わなかった。
「約束だよ」
そう言って、薬指を私に向ける。
「……この歳で指切りなんて子どもみたい」
私が笑うと、
「いいでしょ、べつに」
恥ずかしく頬を染めた千聖くん。
絡まった薬指は、わずかに熱を帯びていて。
どきどきと全力疾走する鼓動。
そわそわして、落ち着かない。
それなのに千聖くんの隣はすごく居心地が良くて。
この感情は、一体何だろう?
***
今日は、二学期の終業式。体育館で校長先生の長い話を聞いて、午前中で学校は終わる。
「ありがとうございました」
そしてクリスマス当日。私はバイトに明け暮れていた。
「ねぇねぇ、美月ちゃん。最近、なんだか少し明るくなったね」
原さんとカフェに行ったあの日から、私のことを〝美月ちゃん〟と名前で呼ぶようになった。それはもはや定着しつつある。
「え、私……変わりました?」
気が抜けて、一瞬固まった。
「うん、なんかね、雰囲気も少し明るくなってる気がするの」
店内からお客さんがいなくなってレジががらんとしたとき、原さんが袋を補充しながらしゃべる。
「それってもしかして、あの人が美月ちゃんの力になってくれたのかな?」
ふと、手を止めて私を見つめた。
原さんには、話を聞いてもらった。気遣ってくれた。たくさんお世話になった。
だから、せめてこれ以上迷惑をかけないために。
「……は、はい」
私が、小さく頷くと。
「そっか、よかった。美月ちゃんに頼れる人がちゃんといて。私、安心した」
少しだけ瞳をうるっとさせて微笑む原さん。