「最初の美月、俺のことすごい拒絶してたじゃん。話しかけられるの迷惑そうにしてたし」

 淡々と告げられる言葉で、私の記憶は急速に手繰り寄せられて、

「…あっ、そ、それは……」

 少しだけ申し訳なく思い、目線を下げる。

「あのときは思い切り顔に出てたよね」

 続けてはっきりとそう告げられるから、「うっ…」と言葉に詰まってしまう。

 そんなに顔に嫌悪感が現れていたなんて。

「……ご、ごめん」

 合わせる顔がなくて、顔があげられない。

「べつに美月を責めてるわけじゃないよ。だから、顔あげてよ」
「で、でも…」
「俺は、嬉しいんだよ」

 そう聞こえたあと、え、と困惑して顔を上げると、

「それだけ俺のことを拒絶してた美月が、俺のことを頼ってくれて。嬉しいんだ、今」

 千聖くんの顔は、とても優しそうに緩んでいた。

「美月が俺につらい過去を話してくれたってことは、俺のことを信用してくれたんだよね? 頼ってくれたんだよね? そう思ってもいいんだよね」

 信用していたのは、間違いないし。
 頼ったのも、間違いない。

「……うん」

 私、千聖くんのこと信用してる。

 いつのまにか。

 気づかない間に心は無意識に求めていたのかもしれない。人の温かさを、優しさを。

「よかったぁ」

 口元を弧に描いた千聖くん。

「美月さぁ、前に言ったことあったよね。〝私と千聖くんの住む世界は違うから〟って」

 たしかに、そんなこと言ったことある。

 千聖くんは〝陽〟で、私は〝陰〟だと。

「…あ、うん」

 だから、どこまでいっても交わることはなくて。

 それなのに千聖くんは──

「同じ空気吸って同じ場所にいて、同じ時間を過ごして、しゃべって名前だって知ってるし、住む世界が違うってなんだよ。俺たち一緒のこの世界にいるじゃん──って俺が言ったよね」

 と、私が心の中で思い浮かべたそれと全く同じことを言った。

 まるでそれが、以心伝心のようで。

「うん、覚えてる」

 私が頷くと。

「俺と美月は、住む世界なんて違わない。別世界なんかじゃなくて、同じ場所同じ時間で過ごしてる」

 私の手をとって、優しく包み込むと。