「その人を傷つけちゃったなら謝ればいいんじゃないのかな。傷つけたことに気づけたのなら、まだ遅くはないよ」
「で、でも、怒ってるかもしれないから……」
いくら優しい千聖くんでも、一方的にあんなこと言われたら嫌だと思うし。「そうだね、怒ってるかもしれないよね」私の言葉に頷くから、ますます私は落ち込んだ。
「でも、仮に怒っていたとしても、やり直せるチャンスが残ってるならやり直した方がいいって思わない?」
人生は一度きりしかなくて、やり直すことさえできなかったことだってある。
「それは、思いますけど……」
苦い記憶が蓋を開けて私の心をひどく傷つける。
「でも、やり直せる証拠なんてどこにもないし……」
弱虫で、勇気もなくて。あの頃のままの自分と変わらなくて。
「じゃあ、美月ちゃんはどうしたい?」
ふいに告げられた言葉に、え、と困惑した声を漏らした私に、
「その人と仲直りしたい? それともこのまま関係が修復されなくて何もなかったときに戻って過ごしたい?」
究極の二択を持ち出されて、困った。
私は千聖くんとどうしたいんだろう。どうなりたいんだろう。
「……べつに、今の──」
ままでもいい、と言おうと思ったそのとき。
優しかった口調や表情や、言葉や存在が。今まで向けられた笑顔、言葉が次々と記憶の奥底から溢れてくる。
〝美月〟
優しい声色で、名前を呼ばれる。
耳に残るあの声が、懐かしくて。
──そして。
「……仲直りしたい」
自然と口をついて出た。
言ったあとにハッとして、慌てて口を手で覆うけれど、
「じゃあ、これから美月ちゃんがとる行動は一つしかないね」
その答えが現れるのを見越していたかのような表情で私を見つめる原さん。
私は、それに小さく頷いたのだった──。