千聖くんになら過去を打ち明けられる?
──そんなはずない。だって、ずっと過去を隠してきたんだから今さら言うなんてことできないし。
私が千聖くんを信頼してた?
──ううん、違う。だって私たちは元々、住む世界が違うから一定の距離を保っていた。それは信頼していないわけで。
だから。
「そんなはずは……」
──ない、そう言い切りたいのになぜか言葉はのどの奥から現れなくて。
そんな私に。
「ないって思いたいのかもね」
言えなかった言葉を軽々と言ってのけた原さんは、
「それだけ高野さんは、傷つきたくなくて自分のことを守ってるのかもしれないね」
〝傷つきたくない〟
たしかに、その通りだ。私は、これ以上傷つくことに恐れている。きっとこの世界の誰よりも。
「でもさ、果たしてそれが自分を守ってることになるのかなぁ」
「……え?」
「そうやって身近にいた人を突き放して自分を守った気でいても、実際はその逆。自分を追い詰めてることになったりしない?」
自分で自分を追い詰めている?
一体、何のために……
「私は、だた……」
自分を守るために千聖くんを突き放して。
「ほんとは、嬉しかったんじゃないのかな。その人がそばにいてくれて、嬉しかったんじゃないのかな、一人じゃないって思えて」
口ごもる私に向けて落とされた言葉に、ハッとした。
その瞬間、頭の中で何かがカチッと音を立ててハマった気がした。
──もしかしたら、ずっと今まで自分が否定していたものかもしれない。
住んでる世界が違うからと突き放して、千聖くんを傷つけてあんな顔までさせて。ほんとは傷つけるつもりなんてなかった。
ただ私は、これ以上自分が傷つかないために、自分の心を守るために放ったトゲだった。
けれど、自分を守るために相手を傷つけていい理由にはならない。
それなのに私は。
「……傷つけて、しまった……」
優しかった彼──千聖くんのことを。
「……どうしよう……っ」
今になってやっと気がついた。自分がしてしまった〝後悔〟を。
──もう千聖くんと、二度と会うことはできない。
「高野さん……」
そう言って、一度声を切ったあと、
「……ねえ、美月ちゃん」
意外なものが落ちてきて、思わず顔を上げる。