だったら初めから突き放せばよかった。
「……そんなのいらない」
──いらない、いらない。
「……私は、この学校で誰かと馴れ合うつもりなんて、初めからないの。友達だっていらないし、悩みだって話すつもりない!」
屋上で死ぬつもりと尋ねた彼には、文字通り私が死にそうに見えた。
だから千聖くんは、あの日私に声をかけた。
──それは、ある意味同情で。
「この学校にだって来たくなかった……!」
吐き捨てるように声を荒げたあと、視界に映り込んだ彼は、困惑したような悲しそうな表情を浮かべていた。
──だから、思った。
傷つけて、しまったのだと。
言ったことを後悔してしまうのは、まさしくこのことで。
けれど、今さら時を巻いて戻すことなんかできない。
「この学校に来たくなかったってなに?」
彼の固く結ばれていた唇が緩まって、薄く開かれたそこからは少しだけ低い声が漏れる。
「……言いたくない」
誰にも、教えたくない。
これ以上、自分の傷を広げるのだけは避けたかった。
「……千聖くんには、関係ない……っ」
困惑したように揺れた瞳は、私を見つめたままで。
──もう後戻りはできない。
けれど、これでいい。
「……もう、私に構わないで……」
静寂な空気の中、打ち据えるように言った。
そのあと背を向けて、走った。
走って走って、息が苦しくなった。
息を吸うたびに冷たい空気が肺に入り込んで、凍りそうなほど痛かった。
それでも走り続けた。
彼から、逃げるために。一歩でも多く離れるために。
「ハア…っ、ハア…っ」
競り上がる息が、苦しくて痛くて。
どれくらい走っただろうか。覚えていないほどにひたすら足だけを動かした。
膝に手を当てて息を整えたあと、一度振り向くけれど、彼の姿はどこにもなくて。私のあとをついてくる彼の姿はいつまでも見つからなくて。
私に呆れたのかもしれない。
でも、それでよかった。
彼との縁を切ることができて。
「……これで、よかったんだ」
空を見上げて、泣いた。
広がっていた景色は、灰色の雲が厚く覆われて今にも雨が降り出しそうな空だった──。