「そんなことない!」
力強く否定した千聖くんの声に驚いていると、
「美月と俺は友人同士。出会った日数とか関係ないし誰が何て言おうが、俺がそうだって言ったらそうなんだ。美月は一人じゃないんだよ。孤独だって思うな。俺がいる。いつでも俺がそばにいてやる。だから、頼っていいんだよ」
まくし立てるように告げられる。
その言葉は、白い息とともに消えてなくなる。はずだったのに、私の耳にひどくこびりついて離れない。
鮮明に、耳に残る。
私を、包み込むように。
けれど、私は何も言えなかった。拒絶することも、肯定することも。何一つできなかった。
北風は、心を凍らせるように冷たくて、身体の芯まで冷えてくる。手も足も、耳も鼻先も。全てが凍りついたように痛くなる。このまま眠ってしまえたら、どんなに楽になれるだろうか。
「美月」
優しい声で、私の名前を呼ぶ。
「やめてよ……」
心の内側に踏み込んでこないで。土足で、心に、入ってこないで。
「……私たちは、赤の他人で無関係で……だから、そうやって知ったような口、聞かないでよ……っ」
私の言葉に驚いて目を白黒させた彼は、「え」と声を漏らしながら固まる。
今まで優しくしてくれたのだって、くれた言葉だって、全部私にとってはまやかしにしか過ぎなくて。
「もう話しかけないで」
イライラ、もやもや、渦巻いて。黒い感情が魔女鍋のようにふつふつと煮えくりかえる。
「美月、なに、言って……」
どこまでいったって私たちが交わることはない。
それに。
「……私と千聖くんは、住む世界が違うの」
表現するならば、千聖くんが〝陽〟で私が〝陰〟。日向と日陰の存在だ。
きっと、千聖くんとはどこまでいっても分かり合えるはずがない。
「なにそれ、意味分かんない」
それなのに彼は、言った。
そして、続けてこう一言。
「同じ空気吸って同じ場所にいて、しゃべって名前だって知ってるのに、住む世界が違うってなんだよ。俺たち一緒のこの世界にいるじゃん」
私なら絶対に言わないし思わない。そんな言葉を彼は、なんの迷いもなく淡々と告げた。
だから、思った。
千聖くんとは、どこまでいったって分かち合うことは不可能だろう。
マフラーを貸してもらって、優しく接してくれて、こんなことを言うのは、相当意地が悪いと思うけれど。これ以上、限界だ。自分のペースで話しかけるし、距離を詰めてくるし、これ以上そばにいられたら土足で心の中を踏み荒らされそうになって困る。