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 千聖くんと少しの距離ができてから、公園に行くことはなくなって。学校とバイトと家の往復の日々が続いた。

「う〜、外寒かったぁ」

 掃除を終えた原さんが、店内へ入って来た。身体を抱きこむようにさすりながら。鼻先を真っ赤に染めて。

「あ、フライヤーが結構減ってきてるね。これから混むかもしれないから準備してもらってもいい?」
「はい、分かりました」

 夕方を中心に揚げ物がよく売れる。夕ご飯にする人が多いからだ。一番人気のからあげと春巻きとコロッケを四つずつ順番に揚げる。
 店内は、揚げ物の匂いで充満する。食欲をそそる匂いだ。

 帰りに一つ買って帰ろうかな。寒い中、食べたらおいしいだろうなぁ。千聖くんと一緒に食べたあんまんも……ううん、やめやめ。なに思い出してるんだろう。自分で距離をとったくせに。

 ぴろりろりろーん。

「いらっしゃいませ〜」

 原さんの声が聞こえて、慌てて復唱する。

 フライヤーのそばで背を向けていた私は、店内へと顔を向けた。

 …あっ、あの、制服私が受験に失敗したところのだ。合格したら今頃あの制服を着てるはずだったのに。

 思わず、目を逸らしてしまう。

 もう一年も前のことなのにまだ過去を引きずっている私は、今も傷ついたままだ。

 キャッキャとおしゃべりする声が近づいて来る。

「いらっしゃいませ」

 レジに来た女の子二人が持っていた商品のバーコードを通そうと思った矢先、

「……あれ、美月……だよね?」

 そのとき私の名前を呼ぶ声が聞こえて「え」と声を漏らす。

 そこには、見覚えのある顔が二つあった。

「……梨生、華菜」

 中学生のときいつも一緒にいた友人二人だった。

 ──ドクンッ

 なんでこんなときに限って出会ってしまうんだろう。神様はなんて残酷なんだろう。

「美月、元気してた?」
「う、うん…」

 なんて、全部嘘。元気なはずがない。

 レジ上に置かれた商品をピッ、ピッとレジ打ちしていく。黙々と。

「そ、そっか、うん」

 気まずそうに口ごもる二人。

 黙り込むから、その間に私は商品をスキャンして「合計で六四〇円になります」と言う。袋詰めをして、あとはお会計を済ませるだけ。

 早く、帰って。じゃなきゃ私……

「美月は、今高校って……」

 ふいに華菜が尋ねてくる。

「あ…えっと……智ヶ野高校だよ」

 みんなで同じ高校を受験して、私だけが不合格で、そのあとどこに行ったかなんて知っているはずなのに。