「──あ、そうだ」

 うっかり言い忘れそうになったことを思い出し、廊下に立ち止まる。

「クリスマスの日、バイト入ったから私の分のご飯は用意しなくていいから」

 自分の頭の中で用意していた言い訳を淡々と読み上げると「え」困惑した声を漏らしたお母さんは。

「そ、そうなの? でも、バイト十九時まででしょ。そのあとからでもご飯食べられるじゃない」

 あからさまに動揺していた。

 もしかしたらお母さんは、クリスマスに家族で過ごせると期待していたのかもしれない。

「うん…そうなんだけど」

 クリスマスの料理は決まってチキンとクリームシチューとポトフだ。全部カロリーの高いものばかり。バイト終わりにそんなにたくさんのものは食べられないし、胃もたれするだけだ。
 もちろん全部おいしいのは分かっている。

 けれど、せめてその日だけでもいいから自由になりたかった。

「バイト終わりで疲れてるからそんなに食べられないし、自分で適当に買ってくるよ」
「コンビニで? それだと身体にあまりよくないんじゃ…」
「一日くらい平気だから、大丈夫」

 コンビニだって最近は、進化してる。塩分控えめのお弁当とかおにぎりとかいくらでも売ってる。

「そういうことだから、私の分は作らなくていいからね」

 なんて冷たい娘なんだろうと、どこか傍観者の如く思う自分もいた。

 けれど、こうするしかなかった。

 妹の理緒と顔を合わせるのだって気まずいのに、何が楽しくてクリスマスをするんだろうって。私には楽しさが見出せない。

 クリスマスも、この世のイベントも全部消えちゃえばいいのに。

 そんなふうに思う私自身も消えちゃえば、こんなに悩まなくて苦しまなくて済むのに──