「美月が何を後悔してるのか分からないけど、それを今聞いたりしない」
「え」
「俺だって美月に話してないこといくつもある。聞かれたくないことだって人間一つや二つは当たり前。だから、無理に聞くことはない」
陽だまりのように温かな眼差しを向けられて、ポッと心に火が灯る。
今は、まだ言えない。誰にも。
「……千聖くんも」
〝話してないことがあるの?〟
のどまで出かかった言葉。「ん?」きょとんと首を傾げる千聖くんの表情は、いつもと変わらなくて。けれど、それを聞いていいのかどうかもわからない。さっき言葉を濁していたから。
だから、グッと飲み込んで、
「……聞かないでくれて、ありがとう」
さっきの千聖くんの言葉に返事をした。
出会った当初は、土足で踏み込まれるんじゃないかと不安だったけれど、千聖くんはそんなことない。一定の距離を保って、ここまでなら大丈夫かなと確認しながら近づいてくる。危ない橋を何度も小槌で叩いて確認しながら渡ってくるような、そんな感じで。
「さっきの話に戻るけど、ほんとにやりたいことない?」
「う、うん」
「じゃあさこれから一緒に探していこうよ」
「……え、探す?」
「だってまだ美月、ないんでしょ。だったら俺と一緒に探せばよくない? 人生まだ長いんだし、これからいくらでも見つかるよ、きっと」
やりたいことないなら探す、か。
なんだか千聖くんらしい。明るい彼にぴったり。
けれど、
「……べつに千聖くんがそこまでする必要ないんじゃないの」
私と千聖くんは、赤の他人。親友ってわけでもないし恋人同士ってわけでもない。一生を誓うような特別な関係でもない。高校を卒業すれば、きっと会うことだってなくなる。
それなのに、彼は。
「俺は、俺のしたいようにする。何年かかっても美月のやりたいことを探す。だから、一緒に見つけよう」
歯の浮くような言葉をけろっと顔色一つ変えずに淡々と告げる。
──何年かかっても私のやりたいこと。
「私に見つかるかなぁ……」
思わず、ぽつりとつぶやいた。
「きっと見つかるよ」
私は、そんなこと考えたこと一度もなかった。失ったものは戻らないと知っているからだ。あの日と同じように。