「だ、だって、ほんとに私なんて……」
そこまで言ってさすがに自分でも気がつくと言いかけた言葉を飲み込んだ。
自己肯定感が低いのは、きっと元々だ。そこに何かしらのキッカケがあるとすれば、おそらく受験に失敗したあの日だろう。希望も目標も失って、それと一緒に自己肯定感まで失くしてしまったらしい。
「──ねえ、知ってる?」
そう前置きをするから、なんだろうと思って恐る恐る顔をあげると。
「言葉には言霊ってのがあるから、自分のことを見下げるような言葉を言ったら自分に返ってくるんだよ」
「……言霊」
「そう。言葉にも力があるからね。自分で言ったことがその通りになっちゃうことだってあるんだよ、気をつけないと」
言霊……か。でも、そんなことで未来が違うならもうとっくの昔に気をつけてる。
けれど、千聖くんが私のことを考えて言ってくれてることだけは伝わってきて、
「……うん」
素直に頷いた。
そうしたら、千聖くんはクスッと笑って。
「最近の美月、少しだけ丸くなったよね」
「……丸く?」
それって、太ったって意味かな。だとしたら、それを本人に直接言っちゃう千聖くんは最低ってことになっちゃうけれど。
「性格が、ね」
──私の想像は外れていて。
「なんか初めの頃はたくさんの針を纏うハリネズミみたいに、俺のこと警戒してたから。一歩でも近づこうものなら針を俺の方へ向けて威嚇してたし」
彼の言う〝丸く〟は性格のことらしい。それも私をハリネズミだと例えた。
「威嚇……?」
「うん。自分の身を守るために一生懸命俺に威嚇してるみたいだったよ」
「そんなのしてない」
「してたしてた。だからマフラー巻くときだって針で刺されないか心配だったけどね」
「……私、針なんてついてない」
おかしな会話でムキになる私に、「まぁ、それくらいの警戒心ってこと」と言葉を付け足して笑う千聖くん。
「だけどさ、今はその針がなくなった感じがするんだよね。少しだけ警戒心解いてくれたのかなー」
ハリネズミが針なくなっちゃったら、それはもはや。
「……それだと私、ただのネズミになっちゃうじゃん。嫌だよ、そんな弱々しいの」
私を覗き込むように見つめる彼の視線から、顔をフイッと逸らす。
私は、いつだって強くなきゃいけない。自分の心を守るために。身を守るために。前後左右のどこから攻撃がきたとしてもそれに打ち勝てるように、無数の針を持っていなければならない。