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 千聖くんと連絡先を交換してから連絡を取るようになった。そこでバイトがない日たまに話そうということになって私が提案したのは、たまに行く公園だった。

「美月は、バイト始めようと思ったキッカケって何かあるの?」

 唐突に尋ねられて「え」と困惑した声が漏れる。まさか聞かれるとは思ってなかったから頭の中が白く抜け落ちる。

「キッカケ……」

 えっと、えっと、早く誤魔化さないと……

「……欲しいものがあったから」

 頭の中で考えて一番無難な答えを口にする。欲しいものなんて特にないないし、お金なんてべつに欲しくない。けれど生きてくためには必要なものだ。だから毎月ほとんど貯金してスマホ代だけは自分で払うようにしてる。

「あー、そっかぁ。やっぱ高校生になると欲しいもの増えるもんね」
「う、うん……」
「それに少しでも自分で働くとお金稼ぐ大変さも分かっていいよね。親に感謝の気持ちも湧くし」

 親に感謝の気持ちとは無縁な私。
 むしろ妹とお母さんとは距離をとっている。

「……そう、だね」

 けれど、その感情を飲み込むの。

 千聖くんには知られたくなかったから。

 心の内側で私がどんなことを考えているのか知られないために、気づかれないために嘘をつく。

「でもさ、美月えらいね」
「え、なんで……」
「高校生でバイトするって簡単なことじゃないよ。高校一年の十六歳ができることじゃない。だからもっと美月は自信もっていいんだよ」

 私の低い自己肯定感を、彼はひょいと掬い上げる。
 けれど、だからといって簡単に自己肯定感は持ち上がることはない。

「全然、すごくなんてないよ」

 自信なんてもてるはずがないし、むしろ後ろめたさしかない。だって私の負の部分をひた隠しにして、千聖くんの前では別人のように偽っているから。

「なんで。そんなことないよ。もっと自分のこと褒めてあげなよ」

 千聖くんの真っ直ぐな言葉が、罪悪感を煽り悪いことをしたような気分になる。

「そ、そうかな。私なんかよりもすごい人はもっといると思うよ」

 過去に囚われたままで、嘘をついて罪悪感を感じて、そんな自分が嫌になる。

 それを指摘するように、

「美月ってなんか自己肯定感が低いよね。俺が褒めても全然って否定するし、〝私なんか〟って自分を下げて言うし」
「それは……」
「そういうのもったいないよ。自分のことは自分が一番認めてあげなきゃ」