何かとんでもなく嫌なことを言われるんじゃないかと予想して勝手に怖がって一人、怖気付いて、逃げようとすら考えている私。なんて意気地なしなの。

「全然大丈夫! 今日来れるから!」

 ここがどこだかを忘れて声を張り上げると、スマホ越しに「あ」声が聞こえた。

 ……〝あ〟?

 なんだろう、と思ってあたりを見回すと、ベンチに座っていた彼の視線が、ばっちりこちらを向いていて。

「……あ"」

 しまった、そう思ったときにはすでに遅かった。

『なんだ、美月そこにいたんだ』

 離れていて表情はよく見えないのに、スマホ越しに聞こえる声がクスッと笑っているようで。

「あー……う、うん、今来たところで」

 慌てて言葉を取り繕うと、スマホを耳元から下ろして、プッと通話を終了させると彼のいるベンチへと足を進める。

「遅くなって……ごめんね」

 嘘をついたことがいたたまれなくなって、ベンチの端に腰を下ろした。

「いや、全然大丈夫。美月に何もなくてよかった」

 予定時間に遅れたのに、それを咎めもせずに私のことを心配してくれた。

「……あの、それで私に話ってのは」

 笑った表情は、まるで陽だまりのようで、ここまで来る道中悩んでいたのがアホらしく思ってしまうくらい彼の笑顔を見ると心がぽうっと暖かくなる。

「ああうん、その前に一つ聞いておきたいことがあって」

 それって一体、何だろう。

 ゴクリと固唾を飲んで、ピシリと背筋に緊張が走る。

「妹さんにおまもり渡せた?」

 想像していない方向から矢が飛んできて「……へ」思わず声が漏れた。

「初詣行ったときお守り買ったでしょ? どうだったかなぁと思って」

 そういえば、この前まだ渡せてないって説明したんだったっけ。でもそれから色々あってお守りは、もう渡せないかもしれないと机の中に閉まっておいたんだけれど。

「……じ、実は、数日前に理緒と……妹と話すことができて…そのときにお守りも渡せたよ」
「え、ほんとに?」
「う、うん。ちゃんと今までの分、妹と話すことができたと思う」

 一年前の思い出したくもなかった〝過去〟の扉を、ようやく〝今〟開くことができて、そして少しだけ溝を埋めることができた。