「私はずっと……お姉ちゃんのこと、尊敬してた……お姉ちゃんの背中をずっと…追いかけてた……っ!」

 途切れ途切れになる声は、かすれていて、けれど力強くて。

「お姉ちゃんのこと大好きなのに……嫌いになるはず、ないじゃん……っ!!」

 理緒の切ない感情が、胸の奥に棘を刺すように次々と痛みが広がった。

「……理緒」

 なんでもっと早くに気がつかなかったんだろう。妹が私のことをバカにするはずがないし、見下すわけでもないし、同情するわけでもない。妹が私のことをどう思っていたか、なんて知っていたはずなのに……

 ──バカは私だ。

「前から学校の先生になりたいって思ってた…嘘じゃないよ、ほんとに……そう思ったきっかけは、間違いなくお姉ちゃんなの……」

 鼻をすん、とすすりながら涙を袖で拭いながら。

「お姉ちゃんみたいに勉強教えるのうまくなりたいって……そしたら嫌いな勉強だって覚えるの楽しくなるし、みんなの役に立てるし、だから……」

 子どものように泣く理緒は、やっぱり私の妹で。ひとつしか違わないけど、私はお姉ちゃんで。
 そのことに何も変わりはないのに、どこで私はそれを見失ってしまったんだろう。

「ごめん、理緒。間違ってたのは、私の方だったね」

 私の言葉を聞いて、すん、と鼻をすすりながら顔をあげる理緒。

「どうしてこんなに私だけがうまくいかないのかなって、どうしてみんな幸せそうなんだろうって憎んで……自分だけが悲しい、苦しい、そんなふうに思ってた」

 ──それは、悲劇のヒロインだった。

「……お姉ちゃん」

 けれど、実際はそんなことなくて。

「理緒も、お母さんもみんな……苦しんでいたのに、そのことに気づいてあげられなくて、ごめん」

 静かに、深く、頭を下げた。

「理緒をたくさん傷つけて、ごめん」

 一年先に生まれたら、お姉ちゃん。
 一年後に生まれたら、妹。

 世界でたった一人の大切な妹なのに。