今までなら、こんな些細なことさえも苛立ちの種にしかならなかったのに。今はそんな顔をさせているのが申し訳なくて情けなくて。

「理緒は何も言ってくれなかったけど……」

 〝なぜ〟今の志望校に行きたいのか今も理緒は言ってくれない。説明を、弁解を、何も言わない。それはまるで、自分が悪いことを肯定しているようで。

 ──そうじゃないんだよ、って言えない代わりに。

「この前、お母さんに聞いた。理緒、学校の先生になりたいんだって?」

 そう言えば、「え」と弾けたように顔をあげる。困惑したように、引け目を感じているような弱々しい表情とともに。

「しかも理由が、昔私がよく勉強を教えてくれてたからって聞いた」

 目を逸らさずに、真っ直ぐ彼女を見据えて。

「そ、それは……」

 すると、妹は弱々しく唇を結ぶ。

 私が切り出さなければ最後まで言うつもりはなかったのだろうか。ずっと私に引け目を感じて過ごすつもりだったのだろうか。姉妹として過ごすことを諦めていたのだろうか。

「なんでもっと早くに言ってくれなかったの?」

 けれど、そうさせてしまったのは他でもない私。

 言えない空気を作ったのは、私だ。

「言ってくれたらもしかしたら私だって、あんなふうに……突き放すようなこと……」

 言わなかったかもしれないのに。

「私が受験に失敗したから? 私がバカだから? それとも私に同情してくれたの?」

 自分自身に苛立つのに、言葉は妹を攻撃しているようで。感情が一方的に暴れてゆく。

「勉強の教え方がうまかったからって言うけど、ほんとは理緒、そんなこと全然思ってないんじゃ……」

「──そんなことないからっ……!」

 暴走する私の言葉を遮ったのは、妹の声だった。

「そんなこと、ない……あるはず、ないじゃん……」

 もう一度、私の言葉を否定して。

「お姉ちゃんをバカになんてしてない……お姉ちゃんを同情なんかしてない……するわけないでしょ……っ」

 ──ポタッ、一粒の涙が落ちた。

 たしかにそれは存在して、光を落として。