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「理緒、ちょっといい?」
お風呂上がりの妹に声をかける。今までは、そんなこと不可能だったのに。
千聖くんの過去を聞いて、自分の奥底に芽生えていた感情に気がついた私は、かつてないほどの自信でみなぎっているようだった。今の自分にならなんでもできる、そう思った。
「う、うん、大丈夫」
理緒は、一瞬動揺したあと、きゅっと唇を結んでゆっくりと頷いた。まるでそれは、小さな決意のように見えた。
そのまま私の部屋へと案内する。
自分から声をかけたのはいつぶりだろう。自分から話があると引き止めたのはいつぶりだろう。そんなことを考えながら、ぼーっと立ち尽くしていると。
「……お姉ちゃん?」
そんな私を心配してか、理緒が声をかける。
「あ、ごめん。なんでもない」
いけないいけない。自分で引き止めたのに黙り込むってダメでしょ、と気持ちを切り替えて引き出しを開ける。
そこに入っていたのは、もう渡すことができないと思っていたお守りだった。
手に取って小さく握りしめる。
私は深く悩みすぎていて目の前の大切なものを見失っていた。この一年間、それに気づかないまま周りを傷つけて、自分が一番苦しいのだと思っていた。まるで悲劇のヒロインのように。
「理緒にこれ、渡したくて」
だからこれは、私なりのけじめ。私なりの現実との向き合い方。たくさん悩んだ。嫌になった、世界に。だけど、見失いたくないものは、大事にしたいことは見つかった。
「え、お姉ちゃん、これ……」
私の手からそれを受け取ると、困惑したような顔で私を見つめた。
「もうすぐ受験でしょ。だから、お守り買っておいたの」
初めは、なんでわざわざ私が落ちた志望校を受験するんだって憎んで突き放した。散々酷いことも言った。
「で、でも、お姉ちゃん……」
今更、優しくされたって困ることも知っている。
「うん、ほんとは許せなかった」
理緒が何を言いたかったのか理解できた私は、
「もっといい学校なんてたくさんあったのに、なんでわざわざ私が落ちた志望校に行くんだろうって、ずっと理緒のこと憎んだこともあった」
一言一句丁寧に息でくるむように言葉を紡いでゆく。
「……うん、そうだよね。お姉ちゃんがそう思って当然だよね」
悲しそうに顔を歪めたあと、目線を下げる理緒。