「でもさ、今だったら思うんだ。

 ……生きててよかったなって、ほんとに」

 泣きそうな声で、細々と告げられるから私まで泣いてしまいそうになって、じわっと抑えていた感情が心の奥底から溢れそうになる。

「千聖くん……」

 知らなかった事実を聞いて、知らなかった出来事を知って。

 彼の存在の大きさを、改めて実感させられる。
 彼の過去を知って、苦しいのに。
 どうしてここまで私に優しくしてくれたのか、それがようやく謎が解けた気がする。

 それと同時に心の距離が縮まったようで。

「美月と出会えることができて、よかった」

 蜘蛛の糸のように、つつーと頬を伝う涙が、冷えた空気で一瞬に固まるように。

 私の手を引いて、

「……よかった」

 何度もその言葉を復唱して。

 私をきつく、抱きしめた。

「千聖くん……っ」

 その手は、少し震えているようで。

 同じつらいことを経験しているからこそ、〝死〟を覚悟する思いが重なって見えた。

「……つらい過去、話させてごめんね。今までたくさんたくさん…ごめんね」

 涙を流して、声を漏らして。

「でも、話してくれて……ありがとう」

 気づかないうちに私たちは、惹かれあっていた。お互いの境遇が似ていたから。

 それとも神様が巡り合わせたのか。

 どちらにしても、これはきっと運命で。

「……ありがとう、千聖くん」

 胸の奥底に隠れていた感情が、水泡のように表面にあがってくる。まるで深海の中からぶくぶくとあがる水泡のように、その中に潜んでいた〝答え〟は──

 ──きっとこれは〝愛しさ〟だ。