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 それでも明日はやって来て、東の空から朝日が照らす。十二月の朝は、肌寒く布団の中から出るのは何よりも憂鬱だった。

 そんなある日の休み時間、教室で頭を悩ませていた。

「……これ、どうしよう」

 ちら、と机にかけてある紙袋に視線を落とす。そこに入っていたのは、伏見くんに借りたマフラーだった。
 屋上で出会ったあの日から、早くも数日が過ぎる。いまだに私の元からマフラーは離れていかない。

「石原、これプリント配っててくれー」

 次の授業の数学の先生が日直に渡す。その様子を本を広げながら、一番後ろの席から眺めていた私。
 基本、学校にいるときは一人で特にすることがなくて、こうやって本を広げながら〝読書をしている〟を演出する。

 人と関わることは嫌だけれど、ほんとは一人は嫌いだった。教室にいると、どうしたって自分が孤独なのだと実感させられるからだ。そんな私を見て周りからは〝寂しいやつ〟だと思われているだろうか。
 
「えー、なにそれ。まじで? うけるー、やばい!」

 手を叩きながら談笑するのは、クラスでも目立つ女子たち。若者言葉が流行っているのか、みんなそれを当たり前のように使う。楽しそうにおしゃべりをして、毎日が幸せでたまらない。そんな表情を浮かべていて、私の心の奥にもやっと黒い影が落ちる。

 私はなぜ、ここにいるのだろうか。
 私はなぜ、存在しているのだろうか。

 どうして私は、〝未来〟を掴み取ることができなかったのだろうか。

 ──パサッ

 不意に、本の上にプリントが落とされる。顔を右上へと動かすと、すでに別の人の机へと移動してプリントを配っていた。淡々と。

 べつにそれを責めたりはしない。声をかける必要だってない。けれど、無造作に本の上に落とされたプリントが、すごく切なくて悲しくて。
 私を必要としている人は、ここにはいないのだと思い知らされる。

 望んでやって来たわけではない高校。当然、希望だってなければ未来もない。知っている友人だっていなければ、仲良くしている人だっていない。そんな場所で私はこれから二年もここで過ごしていかなければならないのだと思うと、うんざりした。

 ──ふわり、風が吹き、机の上のプリントを攫ってゆく。けれど私は、ひらりと儚く落ちたそれをただただ眺めていることしかできなくて。
 一人では立ち上がることも、変わることもできない子どものよう。